第一章 代打ですが仕事は完璧にこなします

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 シャッツィは今や世界に名を馳せる玩具メーカーだ。三代目の若き社長、進藤(しんどう)隼人(はやと)氏の采配でドイツの伝統的な玩具を扱う企業と手を組み、製造過程や原材料などにとことんこだわって安心安全を追求した玩具を開発した。  それが瞬く間に話題となり、モンテッソーリ教育やシュタイナー教育に適していると取り入れる幼稚園や保育園が後を絶たない。さらに海外の王室に出産祝いとして献上されたことで世界のメディアが取り上げ一躍注目の的となった。  国内のみならず海外でもシェアを拡大し、一流企業として成長を遂げている。  社長が若く見た目もいいことも合わさり、話題は尽きず誰もが名前を知る会社となっていた。  けれど今から向かうのは、もうひとつの方の仕事だ。  コンシェルジュに案内された専用のエレベーターに乗り込み、カードキーをセットすると自動で目的階が定まった。どんどん増える数字を見ながら上り続けるエレベーターの中で先にコートを脱ぐ。ここはエントランスを含め全室空調設備が完備されているらしい。寒すぎず暑すぎず。  エレベーターを降りて指定された部屋の前に立ち、荷物を持ち直してから再びカードキーをかざそうとしたが、すぐにその必要はないと思い至った。  なぜならこのフロア全部が依頼主のもので、カードキーはこの階に停まるために用意されていたからだ。半信半疑でオリーブ色のドアに手をかけるとやはり鍵がかかっていない。  開けると、電気がぱっと点いた。広い玄関に高級そうな革靴が二足。邪魔にならないよう履き慣れたスニーカーを脱いで長い廊下を突き進む。
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