第一章 代打ですが仕事は完璧にこなします

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 モデルルームのようで、生活感がまるでない。自分が来た意味があるのだろうかと不安にさえなる。  しかし、依頼されたのは間違いない。気合いを入れるためにも持ってきた大きなトートバッグから赤色のエプロンを取り出し身につける。  いつも以上に緊張している自覚はあるが、依頼主は不在なのだからいつも通りに仕事をするだけだ。  よし。さっそく始めよう!  大学生のときに伯母の会社でアルバイトとしてこの仕事を始める際、お金をもらう以上は生半可な真似はできないとスタッフが受ける研修を一通りこなし、空いている時間に自主的にマナー講座や料理教室にも通った。  物心ついたときから父親はおらず、母は仕事で家を空けがちだったので、自然と家事は自分でするものという認識で育ってきた。  おかげで料理をはじめとする家事は得意で、腕を上げるのも楽しく、なにより誰かの役に立っていると実感できるのが嬉しい。  とはいえ、あくまでもアルバイトとしてこの仕事を受け止めていたので、就職活動は行い、シャッツィに採用が決まった ときは、素直に喜んで就職するつもりだった。けれど伯母が倒れ、今もこうしてダブルワークとしてこの仕事も行っている。  伯母は十年ほど前に伴侶を亡くし、子どももいなかったので今はひとり暮らしだ。私はあまり伯父を覚えていないが、伯父が亡くなってから伯母は悲しみを振り切るためにも元々得意だった整理整頓や家事を活かして会社を起ち上げるのに奔走した。  今では本を出すほどにまでなり、業界ではちょっとした有名人だったりする。
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