第一章 代打ですが仕事は完璧にこなします

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 今回は伯母の代打だ。依頼主は伯母を指名していたが、伯母が数日前に体調を崩してしまったのだ。  手術を経て、仕事に復帰したものの以前のようにはいかず、依頼主にも契約時に事情を話し、別の者が代わる場合もあると伝えている。 『お願い。私の代わりができるのは未希しかいないと思っているの。身内贔屓ではなく社長として、この仕事はあなたに託したい。先方には話してあるから。迷惑かけてごめんね』  手を合わせ、代役を頼んできた伯母の姿を思い出す。純粋に実力を認めてもらえたのは嬉しいし、期待に応えたい。なにより伯母には無理してほしくないのが本音だ。  買い物の代行に、作り置きも含めた食事の支度。部屋の掃除、洗濯、お風呂の準備と限られた時間でこなしていく。ベッドメイキングは含まれていなかった。  平日に一回、土日のどちらかに一回と、週に二回訪れる契約になっている。契約社員は今日みたいに早上がりの日があるので、それを利用したらしばらくは依頼主の希望するスケジュールでここに通えるだろう。  何品か料理を用意し、やっと一段落ついた頃だった。玄関に人の気配を感じ胸がドキリと跳ねる。おそらく依頼主が帰宅したのだろう。  時刻は午後八時前。聞いていた時間よりも早い。  リビングのドアに注目していると、ドアが開きスーツを着た男性が現れた。背が高く、ぱっと目を引く外見はそこらのモデルや俳優にも負けていない。  艶のある黒髪はワックスで整えられていて隙がない。意志が強そうな切れ長の目に、すっと通った鼻筋。すべての均整が取れているのはもちろん、放つオーラがまず違う。彼の持って生まれた天性のものか、あらゆる経験から生まれたのか。
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