第一章 代打ですが仕事は完璧にこなします

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 高級そうなスリーピースのネイビーのスーツが申し分ないほどよく似合っている。  彼はすぐにこちらに気づき、その瞬間、私は勢いよく頭を下げる。 「おかえりなさいませ。家事代行サービス『(くれない)』より派遣されました沢渡です」 「沢渡……君が?」  頭を下げていたので彼の表情は見えないが、声には不信感が含まれていた。  伯母から、『自分の代わりに沢渡というスタッフが向かう』という話は伝えてもらっている。けれど直接、会うのは初めてだ。 「はい。社長の小松(こまつ)を希望されていたのは存じ上げております。しかし連絡を差し上げた通り、小松が持病による体調不良で今回は私が代わりに参りました」  通常なら依頼のあった時点でどのスタッフが向かうのかマッチングのようなものがある。今回は事情があるとはいえ、希望していたスタッフではなくなり不満を抱かれるのも無理はない。  家事に関する本を出版しているのもあって、その実力に期待して伯母を希望する人は多かった。 「小松社長の体調のことは承知していたし、無理はしてほしくない。しかし、代わりにやってきたスタッフがどうしてよりにもよって君みたいな若い女性なんだ」  顔を上げ彼を見ると、その表情にはありありと嫌悪感が滲んでいる。 「ご心配やご不満はもっともです。ですが、小松の代わりを務められる自信はあります。この仕事の経験もそれなりに長く」 「そういう話じゃない。若い女性なのが問題なんだ」  私の発言を遮り、彼は苛立った口調で告げた。こういった事態は実は珍しくない。若いだけで仕事ぶりに不安を抱く依頼主もそれなりにいて、交代を申しつけられた経験も一度や二度ではない。今回もそうするべきなのか。
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