第一章 代打ですが仕事は完璧にこなします

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「わかり、ました。次は回復していれば小松が、回復していない場合は、別のスタッフが来るように手配します」  これで話は終わりだ。仕事もほぼ終わったので帰ろう。  ぐっと握りこぶしを作り、顔を上げたのと同時に彼を真っすぐに見つめた。次の瞬間、口が勝手に動く。 「年齢や性別関係なく仕事を評価すると謳(うた)っているシャッツィの社長が、若いという年齢だけで仕事ぶりもまったく見ずに判断なさること、とても残念に思います」  彼の虚を衝かれた表情を見て、全身の血から気が引くのを感じる。  覆水盆に返らず。後悔先に立たず。今の状況を表すことわざが頭の中を駆け巡るが、言ってしまったものはどうしようもない。  依頼主の彼は進藤隼人、三十一歳。私が契約社員として働いている株式会社シャッツィの若き社長だった。  伯母から彼の下へ代わりに行くよう伝えられたとき、こんな偶然があるのかと驚いた。やりづらいかもしれないが、私の腕を買っての判断だと言われ、悩んだ末に承諾した。  本人に直接会ったことはないし、おそらく社長も契約社員である私のことなど知らないだろう。だからなにも知らないふりをしようとしたのに、彼の発言についひと一言物申さずにはいられなかった。  いつもならどんなに腹を立てても笑顔で対応できているのに。  プロ失格だ。ましてやここには社長である伯母の代わりに来ているのに。 「悪かった。君の言う通りだ」  とっさに謝罪の言葉を述べようとしたら、なぜか相手が先に口にした。
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