第一章 代打ですが仕事は完璧にこなします

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 混乱して社長を見ると、彼に先ほどまでのとげとげしさはなく、困惑めいた笑みを浮かべている。 「たしかに、年齢や経験、性別などで仕事の出来や良し悪しを決めるのは浅はかだ。偏った見方は会社全体の成長を妨げる」  納得したように彼は呟き、こちらにゆっくりと近づいてきた。 「撤回するよ。今日は世話になったね」 「い、いいえ。こちらこそ失礼な発言をして、申し訳ありませんでした。次回は極力希望に添えるように致しますので」  それから彼に今日の家事代行内容を説明してチェックしてもらう。不備がないと了承して書類にサインをもらったら私の仕事は終わりだ。  エプロンを外し、さっさと帰り支度を済ませる。社長は律儀に玄関まで見送りにやってきた。 「失礼します。ご利用ありがとうございました」  ここに来ることはもう二度とない。次は片山さんか田中さんにお願いしよう。ベテランの年配スタッフの顔を浮かべ、部屋をあとにしようとした。 「教えてくれないか?」  そのとき不意に真面目な口調で問いかけられ、目を瞬(しばた)かせる。社長と視線が交わり、彼の真剣な表情が思ったよりも近くで目に映った。 「なぜこの仕事を?」 「個人的な質問には応えられません」  彼の質問の意図は読めないが、回答としてはこれで正しい。しかし社長は眉を曇らせた。 「社長として社員に聞いているんだ。第一営業部、営業補佐の沢渡未希さん?」  あまりにも予想外の切り返しに、私は目を見開いて硬直し、持っていたトートバッグをその場に落としそうになった。
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