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ローガンから学んだ護身術は役に立たなかった。否、必要なかった。選ばれた騎士たちはアジトにたどり着くと、賊を捕えていった。瞬きをする度に、息を吐く度に地に伏せる数が増えている。
「……速い」
「精鋭を集めております」
答える間にもセオは目の前の賊を斬り捨てた。ライリーの歩く道には敵の体はおろか流した血もない。彼が道を作っていた。その向こうでディランが派手に立ち回っているのが見えた。王子が前衛に出ていいのだろうか。
「ディラン様!あまり離れないでください。どこに潜んでいるか分かりません。騎士たちにお任せを。ご自分の身の安全をお考え下さい」
「問題ない。先に行くぞ」
「お待ちを!」
駄目だったようだ。セオの白い肌に汗が流れた。彼の実力は精鋭たちよりも高いだろう。それでもディランに追いつけないのはライリーを気にかけているからだ。ライリーの周囲に賊の血さえ飛ばないように気にかけている。多少服や靴が汚れても構わないのに、彼の手足は止まらなかった。
「セオ様。私のことは気になさらず」
「問題ございません。貴女様は私がお守りいたします。誰かディラン様を守れ」
セオが向かうのが一番速く、適任だろう。彼は第二王子付きの騎士なのだから、ライリーの傍を離れないのはおかしい。なのに彼は依然としてライリーを守ろうとし続けた。このままではディランの姿が見えなくなしまう。金髪は洞窟の奥へと進んでいた。ライリーは倒れた体一つない道を走りだした。
「ライリー様?」
自分がディランの傍に行けば、セオも向かえるはずだ。
「私が王子様の元に向かいます」
「え、お待ちください」
セオは困惑しながらも、ライリーの思惑通りについてきた。ディランの背中にも近づくことができ、微かに口角を上げる。『あなたにも前衛に出てほしくはないのです』と思われていることなど考えもしていない。
「お、来たか少年」
「あなたを守りに来ました」
「ははは。何だ騎士志望か。セオの身も危ないな」
「冗談を言っている場合ではございません。賊の頭首は奥でしょうか」
「そうだろうな。奥に出口がなければよいが」
「出口があれば賊が立ち向かってはこないでしょう」
逃げ場がないから彼らは必死なのだ。逃げる手段が騎士を倒すしかないから、続々と地に伏せる数が増えているのだ。奥に向かえば向かうほど空気がよどんでいた。が、何本もの松明が灯されているため、暗くはない。洞窟の入り口付近は賊がたくさん出ていたのに、まるで迎え入れているような気分がするほど、明るい。酒やたばこの臭いが漂う場所にでると、男が一人酒瓶を掴み、どっしりと椅子に座っていた。
「お前が頭首か」
ディランが口を開き、セオが剣をその男に剣を向けた。鋭い剣先が向いているにも関わらず、男は口元に笑みを浮かべている。
「敵襲だと報告は受けたが、お客様が来られただけだとはな」
「客ではない。貴様らを捕えに来た。大人しく捕まり、全地域の盗賊行為につて話してもらおう」
男はへらへらと笑いながら酒瓶に口を付けた。口の端からワインが漏れ出て、首や服を汚した。
「客だ。王族は客だ。だからお前たちは俺たちを捕まえない」
「何?」
セオの眉間に皺が寄る。
「王族の中に貴様の仲間がいるのか」
「ああ、そうだ。王族の罪を問う覚悟はあるかい。お兄さん方」
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