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「ごめん。ミア」
「そんなっ!ライリー様が謝られることではありません」
ディランは村にたどり着くと、港へと向かった。身分は全く隠しもせず、歩き回っているようだ。噂を聞きつけ、一目見ようと追いかける者が後をたたない。騒々しさの陰でライリーは項垂れていた。
「あんなに目立たないように言っておいて……」
「お気になさらないでください。むしろライリー様に褒めて頂いて嬉しい限りです」
「でも、私が邪魔しなければミアは王都に戻れたかもしれないのに」
ミアのフォローが本音であることは、ライリーも分かっている。だが自分の短慮で彼女の未来を崩してしまった可能性も否定できなかった。日陰の道を歩ませてしまっている立場で『愛人はダメ』『真実の愛を』みたいなことを主張するべきではなかったかもしれない。幸福のあり方は千差万別だ。妾でも幸せを感じている者もいる。それにミアにはすぐにでも本命へと格上げされる魅力がある。
「それは流石に」
重いため息を吐きながら考え込んでいると、ローガンが口を挟んだ。山では姿が見えなかった為、ガードを村まで送っているのかと思っていたが、彼はミアと再会した時から近くにいたらしい。ミアが口説かれ、ライリーが怒ったところまで聞いていた。
「え?」
「全部口に出てましたよ」
「あ」
呆れるローガンの隣では、ミアが祈るように手を合わせていた。
「ありがとうございます。ライリー様のお気持ちだけで幸せでございます。王城なんて……ライリー様がいなければゴミ屋敷同然です」
貴族達に聞かれれば無礼だと断罪されそうなことを、目を輝かせて言った。
「ミア、ローガン、いつも一緒にいてくれてありがとう。必ずこの恩は返すから」
「あぁ! その言葉だけで返して頂いてます」
「なら姫様が王子に気に入られれば良いのでは?」
「はぁ?」
主人との感動シーンを邪魔されたミアは馴染みの騎士を睨みつけた。
「あんな軽くて手の早い男に媚を売れって姫様に言うの?そんなことをさせるくらいなら私が貰い受けるから」
「お前に渡すくらいなら俺が守る。別に媚を売って欲しい訳じゃない」
「気に入られろって言ったじゃない!」
「それはっ……言葉を間違えた」
「はぁ?」
「ミア、いいよ。一度ローガンの話を聞こう」
「でもっ」
続けようとするミアの手首を掴み、そっと撫でると、叱られた犬のようにしょんぼりとおとなしくなった。
「ローガン」
「はい」
ローガンは息を吸い、厚みのある胸板が一層大きくなる。
「そろそろ妃としての立場を取り戻しませんか」
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