隠居妃はここにいる

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「ライリーは大人しくするのは難しいのか」 ギルドの従業員の1人が呆れたような声をあげた。 「そんなことはないよ」 「じゃあなんで箒を持っているんだよ」 「だって埃が舞っているように見えたから」 いつもよりも人の出入りが激しかった屋敷は心なしか散らかっているように見えた。ローガンとミアも近くにおらず、手持ち無沙汰になったライリーは箒を持つことに決めたのだ。別に2人がおらずとも、家に戻るなり、町や山の散策ができるが、今日に限ってはそのような気分ではなかった。盗賊は捕まったが、大本は解決していない。町への報復が来ないとは限らなかった。 「それにしたって今日は手柄もあげたんだ。少しは休め。掃除なんて明日も出来るだろ」 「今、したい」 箒を奪おうとする手から逃れようと箒を後ろに隠した。 「ローガンとミアはどうしたんだよ」 「知らない」 「はあ?いつもどちらかとは一緒にいるのに。おい、誰かライリーを休ませて」 箒を取り上げられたないとみると、従業員は屋敷内に声をかけた。だが返ってきたのは諦めを促す言葉のみだ。 「箒を取ったって違うことするでしょ。放っておきなさい」 「無理無理。むしろ一人で帰らせた方があとでミアに怒られるぞ」 「分かる。可愛い顔して怒ると怖いんだ」 「そうそう。『どうして一人で帰っちゃうんですか!』って言われるのは嫌だから。私はここで働くの」 「おい!ライリーまでのっかるなよ」 「もーーー」と叫ぶ姿に頬を緩め、ライリーは箒を持ち直した。やっとギルドに平和が戻った……と思ったが、心地よい騒めきはすぐに沈黙へと変わった。規則的な足音が屋敷に響く。難しい顔をした男が入ってきたのだ。厳しい口調で事情聴取を行い、終わればすぐに姿を消した騎士が戻ってきた。ディランに『セオ』と呼ばれていた男はギルドの温度を下げている。 「少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか」 ライリーが持っている古い箒を一瞥すると、彼は形のいい唇を開いた。 「はい」 返事をすると即座に箒が床に倒れた音がした。セオが箒を奪い去り、他の者に渡した(投げた)が、誰も受け止めきれなかったのだ。呆気にとられる人々を放って、セオはライリーを見下ろした。箒を拾い上げたいが、その空気ではない。 「盗賊討伐のご協力をお願いいたします」 「はい?」
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