隠居妃はここにいる

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「盗賊はすでに捕まっていますよね」 騎士団がしがないに協力を要請する意図が分からないが。セオの表情からは冗談で言っているようには見えなかった。 「ですが、大本は捕らえられていません。今回捕まったのは、末端に過ぎません。彼らは国全体で暗躍している一味でしょう。地域ごとにチームを分けていると見られます。この町の近くにその一つの隠れ家がある可能性があり、ライリー様にご協力をお願いしております。この近辺は地図がなく、土地勘のある者がおらねば、気安く歩き回れない場所です。ぜひ、われわれの調査についてきてはもらえないでしょうか」 一息で言葉を続けた彼は言い終わると、大きく息を吐いた。眉間には皺がより、渋々お願いしているにしかライリーには思えなかった。土地勘のある者はライリー以外にもおり、ギルドの中でも恰幅がよく、腕に自信がある者はいる。彼らをおいて彼女を選ぶセオの意図が分からない。それでも何かの役に立てることは彼女の胸をほんのりと熱くした。 「喜んで」 「……ありがとうございます」 「恐れ入ります。セオ様」 「……っ」 冷たい顔が強張ったが、ライリーは続けた。 「『様』とつけないでください。『ライリー』とお呼びください」 『騎士の身分の中でも高位にいる』と誰でもが見るだけで分かるセオに敬称を付けて呼ばれることに違和感があった。ミアやローガンに呼ばれるときとは違う、肌が浮き立つような感覚だ。彼らの呼び方は昔からで、直せなかったため慣れている。ライリーの言葉にセオは頬を震わせた。 「ではあなたも」 「いえ、騎士様に敬意を払うのは当然ですので」 「私も『ライリー様』とお呼びいたします。職業で敬意の対象を変えることはいたしません」 ふわりと体の中を風が通っていた気がした。周りに与える威圧感だけでは見えなかった、セオの性質が伝わってくる。それはおそらくディランにも通じるものだろう。 「そうですか。ではよろしくお願いします」 「はい。こちらこそ」 深々と頭を下げ合う2人の様子に、周囲で息を殺していた人々は力を抜いた。 「何事もなくて良かった」 「てっきりライリーが連れていかれるのかと思った」 「そんな訳ないだろ。ライリーは何も悪いことはしないんだから」 「そうは言っても、誰かを捕えに来たかのような雰囲気だったぞ」 「雰囲気が怖いだけで、丁寧な方なんだね」 安心しきった彼らはセオがまだいるにも関わらず、話し始めた。セオは彼らを 一瞥し、ライリーを扉へと促した。 「では砦へと参りましょう」 「え」 「何か不都合でも?」 ライリーは左右に瞳を揺らした。がすぐに意を決して口を開く。 「同居人に伝えてきてもいいですか?急に町を離れると心配する人たちなので」 「……はい、構いません。では私もお供……いえ、ここで待っています」 「はい。ありがとうございます」  先ほどまで居場所が分からなったミアたちはすぐに見つかった。二人は一緒に行動していたようで、ライリーを見ると微笑んだ。騎士団への協力について渋られることもなく、送り出してくれたのはライリーにとっては不思議だった。
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