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「村の者……ではないな」
「この奥に続いているようですし、私たちの探しものに違いないでしょう。ライリー様は危険ですので私たちだけで向かいます。ご案内ありがとうございます」
セオの言葉にライリーは握りしめる手に力を入れた。役に立ちたい。村を襲おうとした者を捕まえたい。セオに頼まれずとも、ローガンやミアの隙を狙って盗賊探しに向かおうとは思っていた。長年傍にいた騎士のおかげで腕に自信はあった。たやすく傷を負うつもりはない。また逃げた盗賊を追いかける際も土地勘のある者がいた方がよいだろう。ライリーの頭から身分がばれる可能性は抜け落ち、盗賊のことしか考えていなかった。自身の考えを伝えようと口を開いた。だが言葉を発する前にディランが間に入る。
「待て。その者を返してどうする」
セオとディランが立ち止まっている姿をみた騎士たちが次々と集まってきた。彼らは騎士たちの動向を気にすることなく、向き合っている。
「このあたりの森は地元の人間以外にとっては迷いの森だ。だからこの者を連れてきたのだろう。我々が戻る際、盗賊に逃げられた際、再度少年の力を借りねばならん」
「帰すわけではございません。危険ですのでこの場に残っていただくだけです」
「ここに一人で残るのも危険だろう。残党だけでなく動物もいるだろうしな」
「しかし盗賊団のアジトに連れて行く方が」
主人たちが言い争う中、騎士たちは困ったように笑みを交わしている。焦っている風でもなく、軽く笑っていた。その光景に首を傾げると、1人の男がライリーに耳打ちする。森の中を探し回っていた証拠の汗と緑の臭いがした。
「お二人がこのように言い合うのは日常だ。心配せずともうまくいくさ」
ずっと働き詰めだったのだろうか。僅かに髭が生え、触れるとちくちくとした 痛みを感じそうなほど尖っていた。
「そう……でしたか」
ライリーの記憶にあった王宮は暗く厳しいものだった。だが、ディランとセオの姿は主従関係であれど、自身の意見を言い合う自由が許されているようだ。また騎士たちにも余裕がみられる。今の王宮はそうなのだろうか。ライリーはふと目を伏せた。その頭に騎士の手が伸びる。
「ありがとうな。坊」
「おい。何喋っている。今は任務中だ。気を抜くな」
「……っ申し訳ございません」
刺すような冷たい声に彼の体は凍り付いた。声だけでなくセオの眼差しは鋭い。
「お前たちは選ばれた騎士だ。その気概をもち、恥じぬ振る舞いをしろ」
「はい!」
「またそのお方に気安く話しかけるな。敬意をもち丁重に」
「は、はい!」
「いいじゃないか。気安く話しかけるくらい。な、少年。年上の人間に堅苦しくされる方が気を遣うよな」
ディランの手がキャスケット帽の上に置かれる。
「ほらな。頭の形がいいから触り心地がいいぞ」
「あ……なたは……」
セオが苦虫を潰したような顔でディランを睨んだ。ライリーは頭の重みを振り払って口を開いた。
「セオ様。私も向かいます」
「え」
睨んでいた目は丸く開いた。周りに控えている騎士からも困惑の声が上がった。
「足跡が見つかっただけでアジトにはたどり着いておりません。知り合いから剣の扱いは習っておりますので自分の身は守れます。この場であなた方が迷子になっていないか心配しながら待ちたくはありません」
『結構はっきり言うな』『さすがにそこまでは俺は言えない』独り言のような小声が聞こえているがライリーは見向きもせず、セオと真正面から向き合った。また頭の上に覚えのある重みが載せられる。
「よく言った、少年。本人もこう言っているんだ。連れて行くぞ、セオ」
「……っ少年じゃない」
子どもというような歳でもなく、性別も違うから気安く触れるな。ライリーはもう一度手を振り落とした。それを面白がる王子が何度も手を伸ばし、それを避けるという攻防の間に、セオが静かに頷く。溢したいが人前では溢せない言葉を飲み込んで。
「2人とも王族としての自覚をもっと持ってくれないだろうか」
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