隠居妃はここにいる

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「あの商人と親しいのか?」  暫く走っていると、『関わりたくない』というライリーの意思に気付かない男が尋ねてきた。せっかくガードと別れてから、目も合わせず、口も聞かなかったのに、その努力は無になっていた。ライリーは静かに首を振った。 「ほう……じゃあどんな関係だ?互いに名前を知っているようだが」 「ギルドによく来る商人の1人。私はギルドで働いているから」 「へえ」 「それが何か?」 「別に気になっただけだ」 「……そうですか」  ガードは珍しいアクセサリーを良く売りに来ていた。異国情緒溢れる品々は物珍しさから手に取る者は多かったが、買う者は少ない。どの機会で身に付ければよいか分からないからだ。全く売れずともガードはいつも笑って町を去っていく。あんなに取り乱した姿は見たことがなかった。 「あなたがいて良かった」 「うん?」 ライリーはつい自ら言葉を溢してしまった。相手は小さな声を聴き溢さず、聞き返す。 「あなたがいたからガードさんは無事だった。いつもみたいに1人で町に向かっていたら……危なかった」 口に出すと、死人が出ていない安心が形になった。自然とライリーの表情が緩んだ。が、男の方は眉を顰めた。 「あいつはいつも1人で動いていたのか?」 「ええ、いや……ああ」 「そうか」 考えこむように静かになった男にライリーは首を傾げた。 「何か?」 「……」 尋ねても彼は何も返さない。何度か声をかけても、うんともすんとも答えない。関わりたくはないが無視されるのは気に食わない。ライリーは暴言を思い浮かべた。少し強めに言ってやれば、反応するだろう。好感度なんて必要はない。 「おい…………おっさん」 駄目だったと、何も思い浮かばなかった自分に落ち込んだ瞬間、男は口を開いた。 「おっさんじゃない。20だぞ。どこをどう見たらおっさんに見える」 「……え」 「ほら、髪も肌も若々しいだろ」 「はー」 悪口とも言えない言葉に反応されたことに驚きすぎて、一音しか出てこなかった。ライリーの返しに満足しなかったのか、彼はさらに眉間に皺を寄せた。 「もっと真剣に答えろ。ほら見ろ、若い美男の顔を」 彼はライリーに顔を寄せた。煌めいた瞳が自身と捉えていた。 「す、すみません。名前を知らなったから」 動揺しながら数歩退いて、距離を取った……と思ったが、彼に手を握られた。不機嫌そうな顔は笑みに変わっている。 「確かに言っていなかったな」 握った手に力が入った。ローガンと同じ、剣を使う逞しい手だ。 「俺はディラン。この国の王子だ」 「せめて隠して!!」 心の叫びは声に出ていた。 
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