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男が、ディランが怪訝な顔で首を傾げた。手は握られたままだ。
「隠して?」
「あ……」
自分の失言に思い至り、唇を噛んだ。綺麗な瞳から顔を逸らし、風に揺れる木の葉に目を向ける。
「王都の広間で見かけたから」
「なるほど。まぁ俺の顔は一度見たら忘れられないだろう。魅力的過ぎて」
2人の間をふわりと風が通った。手を振り払ったライリーはナルシスト男から目を逸らし、先を急いた。しかし彼も追いかけてくる。否、ただ目的が同じなだけなのだが、追いかけられている時のように逃げたかった。
「『どうして麗しい王子様がここに』とは聞かないのか?聞いてくれても構わないぞ」
ゾワゾワと背中から鳥肌がたった。100年の恋も醒めてしまうほどの何かを感じた。元から恋なんてしていないけれど、これ以上近づいては碌な目に遭わないという直感がした。ライリーは真っ直ぐ前を見たまま黙ったが、後ろから期待されている気配を感じる。
「どうだ?遠慮するな」
「緊張せずとも良いぞ」
何度も促され、渋々口を開いた。
「ドウシテコノヨウナヘンピナトコロニイラッシャルノデスカ」
「敬語で無くても構わない。お忍びだからな」
「では本名を名乗らないでください」
「『王子様にお目にかけられるとは幸せです』だと言ってくれた者がいた。民を幸せにするのは俺たちの役目でもある。少なくとも誰とも知れない弱々しい少年に助けられるよりも何倍も嬉しかろう」
「誰が助けてくれても嬉しいと思いますが」
彼は仰々しく首を振った。
「まだまだ世間知らずだな。若いから仕方ないな。せっかくだ。王子である俺を見て、学んでいけば良い」
「は「王子様?」
「王子様なのですか」
「え、本当に?」
適当に相槌を打とうとすると、数人の声が割って入った。声が聞こえてきた方を見ると、男達が草を分けて近づいてきていた。
「王子様が我々を助けてくださったのですね」
1人の男がディランの前で何度も頭を下げた。髭の隙間から黄ばんだ歯がのぞいている。顔の半分を髭で隠れているが、笑顔を浮かべているのだろう。王子は彼の肩を軽く叩いた。
「良い。気にするな。ところで怪我人はないか?治療をしに来たんだが」
「なんとありがとうございます。王子自ら来てくださるとは、一緒御恩は忘れません。怪我人はあちらにおります。どうぞこちらへ」
商人達はディランが通れるように、草を分け左右に待機した。彼は小さく頷き、ライリーの耳元に口を寄せた。
「ほらな、喜んでいるだろう」
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