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どんな顔でどう言えば良いか思案するのに暫し無言になる。
なので車内は一層不穏な空気に包まれた。
「…何で? 」
「何が? 」
「何で嘘ついたの? さっき」
「あぁ、そのことならこの通りです。ごめんなさい」
─ 分かってくれればいいのだ。
「婆ちゃんは『走ったら』とは言わなかったんだよね。『川沿いを歩いたら』とは確かに言ってたんだけど。走ったらダメなのはプールサイドだよね。ごめんね」
─ それじゃねーよ! どっちでもいーよ! んなのは! それと何だよそのプールサイドの条り!
誰か分からないから何て呼べばいいか分からない人に婆ちゃんがどうとか言った事について聞いてるんだよ!
「危篤なの? お婆ちゃん」
「誰の? 危篤? 」
え? わざとなの? 私が知らないとでも思ってるのか?
「いやあ、良い人で良かったよ。ちゃんと確認してなかったから、後ろ、どうなってるのかなって確認しに行ったんだよ。ほら、僕、不注意でよくぶつけるでしょ? 事前に確認しておこうと思って」
─ 噓を吐け。
「そしたら、急にあの人が横に立ってて、『お困りでしょう。私が運転しますよ』って言ってくれたんだよ。僕、何も言ってないのにね」
段々と冷静になるにつれて、理解が追いついてはきている。
確かに、変な事は言う人だけど、そういう噓を平気で吐く人ではない。
そんな人なら初めから付き合う事はないはずだ。
白虎君の言ってる事が本当なのだとしたら、さっきのスポーツ刈りの人が言った事は何なんだろうか?
「え、でも『お婆さんが危篤でお急ぎでしょ』みたいな事言ってたよ、さっきの人」
「へえ、そうなんだ」
─ じゃねえよ! 報告ではないんだよ。報告では。こんな事言ってたけど、それってどう言う意味なんだろ? って事だろーが!
「危篤だったっけ? 舞ちゃんの婆ちゃん」
「いえ? 元気ですけど? 」
「へえ、そうなんだ」
─ だから『そうなんだ』じゃねーんだよ!
何か言えよ! 怖えーよ!
「じゃあ、その人は何の事を言ってたんだろうね? 」
─ さっきからそれを聞いているのだ。どうやら理解してくれたらしい。
「え? 何? 怖い怖い、あぁ、何か気になってきたな」
これは長引きそうだ。そろそろイチロウが見えて来る頃だから残り時間は限られている。
でも、こうなるとちょっとやそっとでは切り替えてくれない。
「あれかな? 僕たちの事、誰かと間違ってるとか? 」
有り得なくもないが『県外から来てるとか…』って言ってたから、知り合いだとは思ってないはずだ。
「やっぱあれかな? 川沿いを移動したから良くないものが寄ってきたのかな? 」
さっき初めて聞いた話だけど、強ち間違いではない伝承なのだろうか?
ていうか、その話ってそういうアレなの? オカルト的な? だったら事前に言っといてくれたらもっと全力で止めたのに。
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