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「海に落ちて怒ってるやつ見るの初めてだよね」
「満月の下にぽつんと何か見えると思って近づいてみたら。海面で一人演劇とは恐れ入った」
男たちが楽しそうに笑っている。船員たちのように馬鹿にする笑いではなく、本当に面白いものを見つけたというような顔だ。
「船が沈んだか、奴隷で海に放り捨てられたか。いずれにせよ俺たちは人助けする優しいモンじゃないんでね。お前を助ける気は無い」
「……」
「でもまぁ、面白いものを見せてもらったから。一つだけ問答をしようか。面白かったら船に乗せてやってもいい。もちろん俺らの駒としてだ」
また支配されるのか。だったらこのまま死んだ方が絶対にマシだと思う。海賊の一員になったらきっと人を殺し、分け前なんてない。結局はただの奴隷生活だ。
「人として生きるのと、人間として死ぬ。お前はどっちを選ぶ」
「……。僕は頭が悪いから教えて欲しい」
「おうよ」
「人って、なに?」
その質問に一人の男が答えようとしたけど、僕に問いかけをした男がそれを手で止めた。さっきまで楽しそうにしていた男たちは、まるで獲物を見つめるような鋭い目つきとなる。機嫌を損ねたんじゃない。品定めだ。でも品定めってことは、僕は今人間としてみてもらっている。
その事実が、この上なく嬉しい。今、初めて僕は幸せだ。
「殺し合いをして、奪って、踏みにじって、誰かを不幸にして、自分が幸せになったと勘違いしてる大馬鹿野郎のことだな」
「そっか。安心した」
僕は手を差し出す。
「僕は人の素質がある。連れてって、いずれ昇るであろう処刑台まで」
海賊の末路なんて、海の藻屑となるか捕まって首を落とされるか。海に落ちたら海の一部となる。でも。
「人間として死ぬよりも、人として死ぬことを選ぶのか。生き方を語るんじゃなく、終わりを見据えてやがる。本当に面白いな」
甲板から縄梯子がおろされた。それを降りてきたのは僕に問いかけをしている男。彼が手を伸ばしてきた、僕はその手をしっかりと握る。
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