夢へいざなう月と猫

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 次の日は、まぶしい光を内包した青空。  私は夢の校舎に行きたいと思ったけれど、通っていた中学は通勤電車の途中なんかにはなく、県をまたいだずっと東の場所だ。やはり次元が歪んでいたか、夢のなかの特別な場所なのだろう。降りた所は無人駅だったけど、よく考えれば、途中にあそこまでさびれた駅はないはずだった。その辺り、やっぱり現実とは違うんだろうなぁってがっかりする。  あっという間に週末は過ぎていって、週明けの月曜日に彼の姿を探してみたけれど、どこにも見当たらなくて、その前に黒猫になる前の彼の姿を、どうしても思いだせないことに愕然とした。  覚えているのは、温かな背中と、乾いた落ち葉のような懐かしい匂いだけ。でもまさか、似た輪郭の人を捕まえて、背中を抱きしめてまわるわけにもいかない。その感触だけは夢だったのに確かに覚えていて、触れたらすぐに分かる気がするのに。  そう思うと、スーツを着た男の人すべてが彼の幻影のように思えてきて、いつのまにか目で追っている。誰を探しているかも分かっていないのに、誰に会いたいかはハッキリしているなんて、ずいぶん不思議な状態だな、と思いながら。  次の三日月の夜がやってきたとき、私はハッと気づいた。  あのとき空に浮かんでいた月は、まるで舟みたいに、本当の口のように向きが90度違っていたことを。現実ではあり得ない角度で空に浮かんでいた。あのとき会えたのは、やっぱりあれが、彼の夢のなかだからだったのだ。そうでなければ、月の角度が変わるはずもない。  目を閉じると、車内で立ち上がる男性の気配がして、それが誰の姿かも分からないまま。忘れられない思い出を抱きしめて、ひとりで歩いていく彼の姿を思い描こうとしても、黒猫の姿でしか浮かばなかった。  夜道を横切るのが黒猫だったりすると、「あなたは、あのときの黒猫?」なんて聞いてみるものの、当然のように黒猫は答えない。  仕事帰りに見かけた黒猫から目がはなせなくて、質問した私は本当の意味で落胆したくはなくて、しばらく後ろ姿を目で追っていた。けれど、黒猫はそんな私の屈託なんて気にもとめず、ただ「みゃあ」と鳴くと、どこまでも続く夜のはざまへ溶けるように淡くまぎれていった。
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