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「……とにかく、これ着ろよ」
公園まで逃げる途中、アパートの軒先に吊るされていた洗濯物を拝借していた。
「ほら」
蔵は、ランにそれを与える。
ランは礼もいわずに、ボロボロになっていたシャツで身体を拭うと、それに着替えた。
「……あんたなんて、家に入れなきゃよかった」
「え、でも、何なんだよアイツ? だって、殴られていただろう?」
「たまにいるんだよ、Sっ気の強いヤツがさ」
事も無しに言うが、蔵もようやくランの身体の異常さに気付き眉を顰める。
ランの身体は痣だらけで、その傷は古いモノから新しいモノまで様々だった。
人をいたぶる趣味の無い蔵にとっては、その傷痕は只々惨く映る。
「――じゃあ、ランはMだってのか?」
「まさか」
「……その、こんな事を赤の他人のオレが言うのもお門違いだと思うけどよ。でも、あんな暴力彼氏は早目に切った方がイイと思うぜ。第一、覚せい剤はヤバいって」
尤もな言葉であるが、ランは暗い瞳になって見返すだけである。
「キメセクにハマってるヤツは、必ず相手にも強要しようとするから仕方がないよ」
「じゃ、ねーだろう!」
堪らず、ベンチの足を蹴る。
「お前の身体なんだから、もっと大事にしろってんだよ! 何となく察していたけど、お前、あのボロアパートで商売してんだろう? 別にそれはいいけど、もっと相手を選べってんだよっ」
するとランは、暗い表情で笑った。
「ハハ、何言ってんだよ。このオレに、相手を選ぶ権利があると思ってんの?」
「は? ……だって、ランのツラはかなり綺麗な方だし、もっとちゃんとした格好すれば女にも男にもチヤホヤされんじゃ――」
「オレ、借金が1億くらいあるんだって」
「はぁ!?」
「だから、胴元に紹介された客とあそこで寝てるんだよ」
「一億って――何だよ、その額は? 騙されてんじゃねーの!?」
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