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 借金にしても普通じゃない額に、蔵はまず疑念を抱いた。 「それよぉ、証文とかあるのかよ?」 「あるよ。大事なことだから、控えはちゃんと貰ってるんだ。無くさないように肌身離さず持ち歩いているよ」  ランはそう言うと、首から下げていた小物入れに手を突っ込んだ。  蔵はそれをスマホケースだと思っていたのだが、どうやら違うようだ。  多分ランは、この荒んだ生活の中でいつ河岸を変えてもいいように、大切な物をそこに入れていたのだろう。  ランは、小さく折り畳んだ紙を取り出した。 「ほら、ちゃんと持ってるだろう」 「……ちょっと見せてみろよ」  蔵は半信半疑にそれ(証文)を受け取り、目を通してみる。  そうして少しの沈黙の後に、ちらりとランを見遣った。 「ニシオカタカシの借金の保証人になっていたから、お前に返済義務が回ってきたっていうのか?」 「うん。このままじゃあ殺されるって言って、タカシが逃げちゃって。だからオレが、代わりに少しずつ返済しているんだ。凄く嫌な方法だけど、オレが出来るのって紹介された客と寝るくらいしかないし」 「お前な、タカシが憎くないのか?」 「憎いってより、心配かな。ヤクザに捕まったら内臓売られちゃうって言ってたから」  その口振りから、『タカシ』がランの親友か恋人だったんだろうと察するが。  その前に、大きな問題がある。  蔵は言葉を選びながら、慎重に訊ねた。 「確認しておきたい事があるんだが」 「なに?」 「ここに、なんて書いてあるか分かるか?」  蔵は“証文”の一行を差して、ランを見つめた。  するとランは、歯切れの悪い口調で「ええと、ニシオカタカシが……だから、借金して……返済金額が一億円で……ちょっと、この質問なんか意味あんのかよ?」と言う。  そうして、少し怒ったように(まなじり)を吊り上げるランだが。
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