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「なぁ、もうあそこに戻るのは止めておけよ」 「そういうワケにはいかないんだ。だって、オレまで逃げたらタカシがどうなるか」 「でもそいつ、所在不明なんだろう?」  するとランは、急に無言になった。  この沈黙の意味するところは――。 「なんだ、お前? タカシの隠れ場所知ってたのか!?」  呆れて声を上げたところ、ランは観念したように頷いた。  どうやら借金を背負ったタカシを匿って、健気に身代わりを請け負っていたらしい。  ヤク中のヤクザに犯されながら、こいつは何を想っていたのか? 「タカシって、ランの恋人なのか?」  思い切って訊いてみたところ、意外にもランは素直に頷いた。 「そうだよ」 「何でだよ! いくら恋人だからって、そいつの尻拭いまでしてやる義理なんてないだろう!」  このセリフに、ランは儚い笑みを浮かべた。  誰よりもその事を自覚していたのは、他ならぬラン自身だ。  あちこちから借金して金にだらしない恋人は、しょっちゅうランにも金の無心をしていた。売れっ子ホストだったが、見栄っ張りでいつも金欠だった。  タカシはギャンブルが好きで、女が好きで、酒が好きで。  たまに収入があっても、すぐにパッと遣ってしまうようなどうしようもないクズだったが。 「……でも、タカシだけなんだ。オレのことバカにしないで優しくしてくれたのって。……時々、金が入ったときはオレにプレゼントとかも買ってくれてさ」 「それで(ほだ)されたっていうのか? お前絶対騙されてるよ」  蔵はイライラして、そう声を荒げた。  最初は、次の仕事の目途が立つまで居候するつもりだったが、もうそんなことはどうでもよくなった。  ここまで、自分より底辺を生きる男を見たことがない。  それに、頭は悪いがこれでもカンは良い方だ。 (この銀髪は染めたものじゃないし、肌の色も日本人にしては白過ぎだ。多分ランは、無国籍児だ。きっと学校にも通ってないんだろう。だから難しい漢字がわからないんだ)
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