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ランはその男を見るや否や、恋人を心配するように駆け寄っていった。
「大丈夫? またこんなになるまで飲んで……」
「うっせーな!」
「ダメだよ、マスターみたいに肝臓壊して死んじまうよ」
「このくらいで死ぬわけねぇだろうが」
邪険にふるまう男の態度に腹を立てる様子もなく、ランは献身的にその体を支えようとする。
だが男は、そんなランの腕を振り払うと同時に、暴言を浴びせた。
「イカ臭ぇんだよ、きったねーな! 触んな!」
「ご、ごめん……体は、一応拭いたんだけど……」
「それよりお前、早く戻れよ。チハルが何とか機嫌取りしているけど、このままじゃあ三宮さんマジでキレるって言ってたぞ」
「う……うん……分かった……タカシも見つからないように気を付けて」
この会話から、二人の関係が容易く推測できた。
いくら頭は悪いとはいえ、これで分からなきゃマジで大馬鹿だ。
「おいっ!」
蔵は酔っぱらいの襟首を捉まえると、怒鳴り声を上げていた。
人の好意の上に胡坐をかくような真似には反吐が出る。
そして、相手が自分に気があることをいいことに、傍若無人に振る舞う態度には更にムカつく。
「お前がタカシだな!!」
「な、なんだよテメェは!?」
タカシは、見知らぬ他人に突然襟首を捉えられて、近距離で怒声を浴びせられた事に驚く。
体をひねって掴んでいる手を振り解こうとするが、ヒョロそうな見かけによらず、その腕力はタカシを凌駕していた。
「おい、苦しいって! いい加減に手を離せよ!」
堪らず声を上げたタカシに、蔵は怒声を放った。
「ランがどんな思いでお前の借金を肩代わりしたか、分かってんのか!」
そのセリフに、間近でオロオロしていたランが悲しそうな顔をした。
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