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蔵はかつて、その拳で一人の人間の人生を終わらせてしまったことがある。
それ以来、他人に向けて二度と本気の拳は振るわないと誓っていたのに。
(とはいっても、さっきもヤクザ相手につい反撃しちまったばかりだな。オレの決意なんてこの程度ってことか……)
アスファルトに膝をついてゲーゲー言っているタカシを見下ろしながら、蔵は自嘲気に笑う。
すると、それまで成り行きを見守っていたランが「バカ!」と言って手を振り上げた。
素人の平手など避けることは容易かったが、蔵はあえて避けずに、ランの平手打ちを受け入れる。
――パンッ!
蔵の左頬で、派手な音が鳴った。
同時に、ここまで罵倒されているにも拘らず、それでも尚こんなクズを庇うのならば、もう自分の出番は無いなと思う蔵だったが。
「タカシがこんなになったのは、元々はオレの所為なんだよ! 事情も知らないくせに、変な正義感出すんじゃねーよ!」
意外なセリフに、蔵は目を見開いた。
元々はオレの所為とは、いったいどうゆう事だ?
「タカシ、本当にごめん。オレがいつも変なヤツに絡まれるから、タカシまで――」
だが、タカシは憎々しげにランを上目遣いで睨みつけると、吐き捨てるように口にした。
「そーだよ。全部お前の所為だよ。オレがナンバーワンから転落したのも、借金まみれになったのも……っそ、いてぇ~」
蔵のボディーブローは必殺技に相当する。
素人が受けたのなら、すぐに立ち直ることは無理だろう。
場合によっては、病院に行った方がいいが。
しかし、何やら『こっちか!?』と言いながら、慌ただしい気配が近付いてくる。
(ここにいては危険だ)
そう直感した蔵は、ランの腕を掴んだ。
「とにかく、今は逃げよう」
「離せよ!」
しばし押し問答をする蔵とランだったが、それを解決したのは意外な人物だった。
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