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路傍の石
気が付いたら、大石蔵は路上で伸びている事に気付いた。
異様に地面が冷たくて、いつまでも寝ていられないと起き上がる。
「いってぇ~」
直前に、ヤクザにぶん殴れてダウンしたのだと思い出し、どうしようもない鬱憤に溜め息しか出ない。
(あーあ、せっかくイイ塒を確保したと思ったんだけどなぁ)
茶髪で化粧の濃い、一応美人の部類に入るだろう女に目を付け、上手い事ヒモになろうとしたのだが。
その女に、これまたヤクザのヒモがいたなど予想外だった。
女は金蔓になるどころか、蔵にとってはただの疫病神にしかならなさそうだ。
「おい、くたばったフリして誤魔化す気じゃねーだろうな?」
胡乱な空気に、ただただ溜め息しか出ない。
「……ちょ、勘弁してくっさいよ。オレは、ジュンコさんに彼氏さんなんていないと思って声を掛けたんで。兄さんのような立派な彼氏がいたと知っていたら、声もかけませんって」
と、こちらには争う戦意が無いことを伝えるが。
「ふざけんじゃねー!! オレの女に手を出して、それくらいで許されるわけねーだろうが!」
と、ヤクザは相手に戦意が無いと知るや、俄然やる気になったようだ。
女の前でイイところを見せ、いかに自分がカッコイイワルかアピールする気のようだ。
――本当に、迷惑でしかない。
蔵はウンザリしながらも、一応穏便に済ますようにと遜る。
「マジ、勘弁してください。この通りです」
冷たい地面に土下座をして、哀れな負け犬のように小さくなる。
「本当に、すんませんでした。これからは田舎に帰って、真面目にします」
心にも思っていない事を口にするが、悦に入ったヤクザには通用しなかったようだ。
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