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 女の家に転がり込んでは邪険に追い出され。  日雇い労働者として日銭を稼いでは、博打で一気に散財し。  背に腹は代えられず、ボクシングの経験を活かしてキャバクラの用心棒のような事もしたが、ヤクザと半グレの揉め事に巻き込まれそうになり嫌気が差してそこも逃げ出した。  暴力に頼る真似は二度としないと誓ったくせに、それもろくに守れない。  蔵は何もかもが中途半端なまま、新宿界隈をクラゲのように彷徨っている。  このままだと、行きつく先は野垂れ死にだろう。  何もない自分には、それがお似合いの結末だ。 ――と、そんな自暴自棄で自堕落な生活が続いていたのだが、蔵はランに出会ったことでその考えが次第に変化していた。  自分はもう誰の目にも留まることのない路傍の石で終わっても、せめて目の前にいるこのランだけは、人並みの幸せを手に入れさせてやりたい。  自分よりもずっと不幸なこの男を、救ってやりたい。  それを見届ける事ができたのなら、自分の、このクソみたいな人生も少しはマシだったと思えるだろう。  根拠も何もないが、そう断言することができる。  蔵はそれだけ、ランの純粋な笑顔が見たかった。 (多分これは、恋だ)  蔵はそう自覚すると、もう迷うことはなかった。    ◇ 『糸川法律事務所』  蔵はランを連れてそこに辿り着くと、ドンドンと力任せにドアを叩いた。  時刻は夜の20時だ。普通なら、事務所に人などいるはずがない。  だが、蔵がドアを叩いてから幾ばくもなく、そのドアは開いた。 「……アポイントがない方はお断りなんだが」  手入れをしていないボサボサの頭髪に無精ひげの、眠そうな顔をした男が聞き取りづらい声でぶつぶつと文句を言ってきた。
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