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 糸川はランの容姿を確認するような目線を送ると、難しい顔になって小さく唸った。  どう見ても、ランは混血だ。  父親か母親、もしくは両親揃ってかは分からないが、もしも違法に日本に滞在してランが生まれたと仮定した場合、戸籍問題はかなり複雑になって来る。  事情を訊いて詳細を知りたいところであるが、肝心の、親の行方が分からないとなると――。  話を変えるように、糸川は気になっていたもう一件の方を口にした。 「それでは、ヤクザに騙されたというのは?」  蔵はその言葉を受け、『例の証文を見せてみろ』とランを促す。  そうして提出された証文に目を通した糸川は、呆れたように失笑した。 「何だいこれは?」 「ヤクザがそれを盾にして、ランに無理やり売春させてるんだ。こんなもん無視していいんだよな?」 「これは明らかに公序良俗違反だね。分かりやすく言えば暴利行為だ。訴えれば確実に契約を無効に出来るよ。……しかも、売春の強要だって? そんなの、売春防止法違反で間違いなく逮捕だよ」  糸川のセリフに、蔵は安心したように息をついた。 「よかった。それじゃあ、ランはもう自由なんだな?」 「そうだね。戸籍問題の方はともかく、このふざけた内容の借用書は無効だよ。もしも借金を返せと脅されたら、逆に相手を告発してやればいい。この借用書が証拠になって、相手をブタ箱に送ることが出来るぞ」  ヤクザが相手なら遠慮することもないと、糸川は鼻で笑った。  弁護士の太鼓判に、これでようやく安心したと胸を撫で下ろす蔵であったが、隣に座るランの表情は冴えない。  それが気になり、蔵は「どうしたんだ」と問い掛けた。 「借金は無効なんだから、もっと喜べよ。これからは、ヤクザの言いなりになって体を売る必要なんて無いんだ。ランはもう自由ってことなんだぜ?」 「……あいつらが、ハイそうですかって言って諦めると思うのか?」 「う……」 「オレが逃げたら、ヤツらはタカシを捕まえて内臓を売買すると言ってるっ」
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