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手っ取り早くカツアゲして金を巻き上げるという方法もあるが、そういった事は後々大いなる災いを招く事になる。
過去、痛い程それを思い知っているだけに、蔵は何とか目の前の男に縋りつく事にした。
「なぁなぁ、一週間……三日だけでもいいんだ。お前のところ、泊めてくれよ」
「無理」
「そう言うなって。オレ、大石蔵ってんだ。お前は?」
蔵が自分の名前を名乗ると、五人に一人は「それって時代劇の大石倉之助じゃん」というツッコミを入れるのだが、どうやらこの人物はそれを知らないようだ。
感情の無い眼で蔵を見ると「変な名前」とだけ、吐き捨てるように言う。
(マジか~ええと、他に会話の糸口は――)
急いで考え、蔵は何とか言葉をひねり出す。
「さっきのヤクザがまだウロウロしてるかもしれないだろ。だから、もう少しだけ匿ってくれよ」
しつこく食い下がったところ、相手は溜め息交じりに答えた。
「……いいけど。ただ、ここでは何があっても騒ぐなよ」
蔵はそのセリフを、近所迷惑になるような大声は出すなという意味に捉え、大きく頷いた。
「勿論!」
「じゃ、今日だけならいいよ」
「サンキュー♪ ……で、あんたの名前は?」
「ラン」
端的な言い様に面食らうが、ここは愛想良く振舞うのがベストの選択だろう。
蔵はへへっと笑うと「じゃ、よろしくなラン」と口にした。
この時、蔵はもっと気を付けてランの全身を観察するべきだった。
白く染めた長髪から覗く首筋には、複数の痣があること。
両手首には擦り傷があり、それは明らかに縛られたような痕であること。
微かに漂う異臭が、男の乾いた体液のそれであることに。
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