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 ランのボロアパートに何とか転がり込んだ蔵は、「ここなら使っていい」と、四畳半の部屋を割り当てられた。  その部屋は掃除もしていないのか全体的に埃が積もり、畳はボロボロに擦り切れ、引き戸も建付けが悪く、閉めても隙間から風が入ってくる有様だが。  何より最悪なのは、便所が共同で風呂は無いという事だった。 「なぁ、本当にここで寝泊まりしてんのか?」  ついそんな事を訊いてしまう蔵に、ランは冷たい一瞥をくれる。 「嫌ならさっさと出て行けよ」 「いや、何と言うか――感謝してっけど。でも、あんたってこうして見るとかなりマブいじゃん? ホストになったら、女が幾らでも貢ぎそうだし。芸能界からスカウトも来そうなイケメンだし……」  半分はお世辞から始まった称賛の言葉だったが、確かにこうして見ると、ランは本当にハイレベルの美形だった。  切れ長の目は宝石のように綺麗だし、すっと通った鼻筋も薄い唇もバランスよく整っている。  細面の顔は、人形のように美しかった。  上手い事立ち回れば、こんな底辺が住むようなボロアパートとは簡単にオサラバ出来そうに見える。 (モテそうなヤツをクラブに紹介したら、紹介料が貰えるしな)  そんな算段が脳裏で閃き、蔵は猫撫で声で「あのさ、新宿のクラブで人を募集してるんだが――」と言い掛けるが。 「じゃ、これからこっちの部屋に人が来るから。あんたはそっちの部屋で黙って大人しくしてろよ」  そう言い渡され、蔵は戸惑う。 「人が来る? ここに?」  蔵に割り当てられた部屋は四畳半だが、ランのいう『こっちの部屋』も六畳程しかない。  しかも、積み重なった収納ケースや家電やらがあるので、ここに布団を敷けば、もう足の踏み場も無い状態だ。  こんな場所に、来客があるというのか?
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