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一章〜御城家
20XX年8月8日「楠田元電工の奇跡」から二十年間、様々な出来事が世界全体で起きたが、日本は持ち前の粘り強さを見せてその都度V字回復をしてきた。
しかし、そのV字回復も徐々に緩やかになってしまっていたのも事実だ。
大きな技術革新なども無く、良く言えば平和で淡々とした日常、悪く言えば何も進歩が無い退屈な日常だ。
そんな日常が続く日本の首都、東京郊外に御城(ミジョウ)家はあった。
「お母さん、ごちそうさま。」
火曜日の朝七時、御城家のダイニングで高校二年生の一人娘、制服姿の夏織(カオル)は朝食を終えると、礼儀正しく手を合わせて、見た目に似合わないハスキーな声で食後の挨拶をした。
身長は152〜153程度の小柄、黒髪で毛量は極めて多いのでサイド二本の三つ編みを丁寧に後頭部で合わせてアップにしている。
エルフのようなヘアアレンジだ。
ややウェイビーな髪がそのヘアアレンジをより神秘的なものにしている。
顔はスレンダーな体型にマッチして痩せており小さい。
目は大きく吊り目、小さなおちょぼ口で、刺々しい険のある美人といった印象だが笑うと目が三日月になり途端に年相応の可愛らしい印象に変わる。
東京郊外で六十坪弱の土地を持ち、二階建ての家を所有、車も一台所有していることから比較的恵まれた家庭環境のようだ。
夏織の母親が食器を洗っているキッチンも、多少動きづらそうだが狭いというわけではなさそうだ。
夏織は食べ終えた食器を丁寧に重ねて、母親のいるキッチンに持って行き、静かに置いた。
「お母さん、あたし歯磨きしたら行ってくるからね。もう寝てなよ。お父さん今日お休みでしょ?ゆっくりすればいいのに。朝ごはんだって自分でできるよ?」
夏織はキッチンで洗い物をしている母親の両肩を軽く揉みながら言った。
母親は夏織よりも数センチ身長が低く、夏織と同じく痩せている。
夏織とは違い毛量はライトで、美しい直毛の腰近くまであるロングヘアーだ。
優しい目つきで、健康的な美人という夏織とは正反対な印象だ。
パンツルックのパジャマに身を包み、ごく普通の無地の黒いエプロンで黙々と洗い物をしている。
「ん…夏織はそんなこと気にしなくていいのよ。しっかり学校に行って、きちんと勉強してくれてればいいのよ。気持ちは嬉しいけど…ね…ありがとう…。」
夏織の母親は、健康的な美人のそれではないかすれて小さな声でゆっくりとした口調で答えた。
この母娘は二人とも容姿に似合わない声質のようだ。
「そう?まぁちゃんと勉強してるよ?クラスでもできる方だし。」
「そう、ちゃんとしてるのね?偉いわ…。じゃあそれをしっかりキープしないとね…。」
「はいはい、だから心配しなくていいから。じゃ、歯磨きしてくる。」
「お弁当、忘れないで…?ここ、置いとくからね。」
「ありがとう。悪いねいつも。」
夏織は洗面所へ向かった。
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