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「夏織…話があるの…。」
「何?」
翌朝、母親は夏織の朝食を作りながら起きてきた夏織を呼び止めた。
夏織は無愛想に返事をするとボサボサの髪のまま洗面所へ向かおうとした。
「夏織、少しだけ時間をちょうだい。お願い。」
夏織は無言で振り返り、ダイニングの椅子に座った。
明らかに寝不足の表情だ。
「お父さんは?」
夏織はぶっきらぼうに母親に聞いた。
「…いないよ。」
「そう。で?何?あんまり時間無いから。」
「まず、昨日はごめんね。私もお父さんを止めることができなかったし、私も一緒になって夏織を責めた。」
夏織は母親の話を最後まで聞いた後フンと笑い、言った。
「もういいよ。あたしが悪かった。これからはちゃんと約束を守るし、心配はかけないよ。」
諦めを漂わせ、悲壮感のある疲れた夏織の笑顔は母親の心に突き刺さった。
母親は顔を下に向けた。
「夏織、あなたは私達の大切な娘だよ。何があってもあなたは私達の大切な娘、それだけは変わらない。」
「うん、分かった。ありがとう。お父さんにも謝らなきゃ。心配してくれてたからああやって怒ってくれたんだもんね。何か知らないけど怪我させちゃったみたいだし…ちゃんと謝りたいな。」
今度は疲れた笑顔ではなく、ちゃんとした笑顔だ。
いつもの目が三日月になってしまう夏織の笑顔だ。
その笑顔を見て母親は泣き出した。
「う…う…ごめ、ごめんね…夏織…。」
「お母さん…あたしはもう大丈夫だって。本当にあたしは二人の為に生きる。それが幸せなんだって。二人に救われた命なんだもん。自分の為じゃなくて二人の為にその命を使うのがせめてものお礼だし、それが幸…」
「違うの!うわぁあ…違う!そういう事じゃないの…。」
感情が爆発したように母親はその場に泣き崩れた。
「何よ…じゃどういうことなのよ。」
「ごめんね…夏織…うぅ…あなた、あなたは…エンジェル・ストライクが目覚めてしまった…。やっぱり運命には逆らえない…。」
「何…?エ、エンジェルストライク?」
母親は泣きながらすくっと立ち上がり、夏織に近付いた。
夏織は初めて聞く言葉に動揺している。
母親は夏織の隣に座った。
「こっちを向いて…夏織…私の娘…夏織…こっちを向いて…。」
夏織は尋常ではない母親の様子に従わざるをえないといった様子で椅子を両手で持ち、椅子ごと母親の方に体を向けた。
すると母親は夏織の両膝に手を置いた。
「お母さん…?」
「あなたは昨日の夜、首から何かが出てきた…違う?」
母親は夏織に泣き顔を近付けた。
「う…え…?」
母親に悟られ、また余計な心配をかけてしまうという恐怖と動揺で夏織の体は震えだした。
「その首から出てきたものは何かを壊した…違う?」
「あぅ…あ…」
「それを跡形もなく壊したものを吸い込んだ…違う?」
「ヒ…」
夏織は母親が全てを悟っているという事実で恐怖と動揺はピークになり、また昨日のように大きな悲鳴を上げようとした。
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