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三章〜それでも私は
紗耶虎にエンジェル・ストライクの事を打ち明けた翌日、夏織は上機嫌で学校に出かけた。
今日も午前中だけで学校は終了だ。
授業や勉強が進まないのは困るが、それよりも今の夏織は自分の親友と呼べる人間と秘密を共有している事の嬉しさが勝っていた。
悩みは絶えないし、分からないことだらけだが今はそれでいいと感じている。
学校の教室に着くと早速紗耶虎が駆け寄って来た。
「夏織、何か元気そうじゃん?」
紗耶虎はそこまで言い終えると、紗耶虎に耳打ちした。
「昨日の騒ぎもそんなに広まってないよ?」
夏織はハッとした。
すっかり忘れていたのだ。
確かに紗耶虎のフォローがあってなのかは分からないが確かに妙な視線などを感じない。
比較的穏やかで上品な紗耶虎が思い切り叱り飛ばしたのだ。
フォローというには十分過ぎるものだ。
「そっか、それは良かった…本当にありがとう…。紗耶虎と友達で本当に良かった。」
夏織は三日月を通り越し、目が無くなりそうなほど目を細めて紗耶虎に笑いかけた。
「今日、私と昼ご飯一緒してくれるんでしょ?」
紗耶虎は一瞬その笑顔の美しさに見惚れたが、すぐ我に返り今日の午後の予定を夏織に確認した。
「もっちろん!久しぶりだし、あたし、紗耶虎とたくさんお話したいし。なんだかそんな気分なんだ。」
「あ、でも門限は守ろうね。もう夏織が苦しそうなの見てらんないし。」
夏織はもう一度最高の笑顔を見せた後、きょとんとして聞いた。
「紗耶虎、一つだけ聞いていい?」
「何?急にどうしたの?」
「あたしのこと、色々知ってどう思った?」
「な、何で…?何でそんなこと聞くの?」
紗耶虎は真顔で聞いた。
真顔というより無表情に近い。
夏織は臆すこと無くそれに答えた。
「いや、何となくね。とんでもないもの背負わせちゃったかなって。」
「…。」
「そういう顔してたから…。」
「…。」
言葉での反応は無い。
だが紗耶虎は夏織の右頬にそっと手を添えた。
「紗耶虎…?」
「別に…。ただ…」
「ただ?」
「こんなに可愛いのにさ…。」
「可愛い?あたしが?」
紗耶虎は勝手に話を進めた。
「こんなに可愛くて、素直で、いい子なのにさ…」
「褒め過ぎだって。照れるよ、本当に。」
「こんなの…あんまりだよね…。」
紗耶虎は夏織の右頬に手を添えたまま下を向いた。
夏織もその神妙な様子に少し戸惑っている。
だが夏織はすぐに紗耶虎に切り返した。
「でもあたしには紗耶虎がいる。」
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