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最終章〜神告
午前中の授業が終わり、予定通り午後の授業は無し、そのまま下校となった。
夏織と紗耶虎は夏織の自宅の最寄り駅とは反対方向の電車に乗り込んだ。
電車の中で二人は無言だ。
心地良い沈黙だが、二人とも何かを思い、感じている。
特に紗耶虎は何かを察しているような佇まいだ。
高校の最寄り駅から二駅ほど行ったところで二人は下車した。
この駅前は多くの飲食店が並び、その中には高校生の小遣いで入れるような安価なファミリーレストランもある。
駅から出ても二人は何も喋らない。
どこのファミリーレストランに行くか、事前に申し合わせをしているとはいえ、無言で何事無いように同じ方向へ向かうのは異様だ。
そして紗耶虎を先頭にして、とある安価なファミリーレストランに入った。
一般的な昼食の時間を僅かに過ぎているせいか客はまばらだ。
紗耶虎が先に席に座り、後から夏織が座った。
店員に料理の注文を済ませて、再び無言となった。
あれを食べよう、これが食べたいなどの話も一切ない。
注文してから数分後、ようやく話が始まった。
「夏織と秘密の共有している、私はそれを後悔しているわけじゃないんだけど…。」
紗耶虎が先陣を切った。
夏織は紗耶虎の目を見て頷いた。
話を待っていたと言わんばかりに、大きく頷いた。
「一つだけ、私が思うことを夏織に伝えたいんだ。」
「うん。」
「ね、夏織はその…エン…いや、その力を手に入れてどう思ったの?」
「いや、ただ苦しいし…怖いし…。はっきり言って迷惑でしかないかな。何で…何であたしって。それだけ。」
それを聞いた紗耶虎はフンと笑って、下を向いた。
「そうだよね、それはそうか。夏織ならそう思うよね。」
紗耶虎はテーブルの上に投げ出された夏織の両手に自分の両手でそっと触れた。
夏織が何事かと首を傾げると、紗耶虎は堪えきれないと勢いで夏織の両手の甲全体に自分の手のひらを被せた。
夏織はきょとんとしている。
「紗耶虎、何か変よ?どしたの?」
「いい?夏織、よく聞いて?力って…凄い怖いの。簡単に人を変えてしまうの。何でもそう。夏織は一杯勉強しているから分かるよね?権力、経済力、暴力、武力…それに溺れて身を滅ぼした歴史上の人物がたくさんいるのは分かるよね?」
「うん、まぁ大体滅ぶ奴ってあんまり下の人間を大事にしない感じよね。」
夏織は自分の両手の甲に乗せられた紗耶虎の手をそのままで深く頷いた。
それを見た紗耶虎も深く頷き、再び話し始めた。
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