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高校の最寄り駅から高校までは徒歩15分程度だ。
いつも夏織が乗っている電車であれば予鈴の10分前に余裕を持って席に着ける。
いつも乗っている電車の10分後の電車だと予鈴ぎりぎりとなる。
この日もいつも通り予鈴10分前に席に着いた。
夏織の入った教室は半分以上生徒が揃っており、男女入り混じった会話でざわついてる。
「おはよう、夏織。何かあったの?疲れた顔してるね?大丈夫なの?」
早速友人の、紗耶虎(サヤコ)が話しかけてきた。
身長は夏織より少し高い程度だが、童顔で可愛らしい笑顔が印象的だ。
黒髪直毛を耳の後ろで二つ縛りにしており、童顔を武器にしているようなスタイルだが、声は低めで話し方を含めてかなり大人っぽい。
「いやぁ…?別に、疲れちゃいないよ。大丈夫だよ。」
夏織はフンッと鼻を膨らませて紗耶虎に言った。
『大丈夫じゃないけど…無理矢理元気だっ!やらなきゃって思ってたら意外と大丈夫になってくるものね。』
夏織は紗耶虎から視線を外し、下を向いた。
実際夏織は通学の途中で元気を取り戻していた。
家から駅までの徒歩10分弱で自己暗示をかけて、家の最寄り駅から高校の最寄り駅までの5分弱で自己暗示の最高潮を極めていた。
これが夏織のルーティンとなっていた。
「ふぅん、ならいいけどさ。ね、聞いた?まだ噂だけど、また今日午後休みらしいよ?最近多いよね。」
紗耶虎は少し嬉しそうな顔をした。
「はぁ…そういやそうね。先週の金曜日も、昨日もじゃん。勘弁してほしいわ、ホント…。ちゃんと授業間に合うのかなぁ…心配になってくるよ。」
夏織は紗耶虎とは正反対の反応をした。
それに紗耶虎は食い付く。
「夏織は一年生の時からだもんね。勉強勉強勉強勉強…そりゃここは勉強する場所だけどさ、フフ…こういう時は素直に喜ばないと。せっかくだから遊びに行こうよ。ね?」
紗耶虎は容姿とは正反対の毒々しい色気を振り撒きながら夏織に言った。
その低く、ゆっくりとした口調に近くの男子生徒が密かに視線を移し、すぐに逸らせた。
「行かないよ。勉強しなきゃ。」
「はいはい、そうですか。たまには遊んでくれないと拗ねるぞ、ホント。」
紗耶虎はプゥと膨れてみせた。
「ごめん、でも平日はちゃんとやっときたいの。土日になるとどうしても紗耶虎と遊びたくなっちゃうから…」
夏織は申し訳なさそうに目を伏せた。
夏織は紗耶虎のふくれっ面にはどうも弱いようだ。
涙ぐんでいるようにすら見える。
それを察知した紗耶虎は慌ててフォローに入った。
「アハ…アハハ…嘘、嘘だよ、拗ねないよ。分かってる、分かってるから、夏織の事情は分かってるから。ね?」
「うん…ごめんね?」
夏織は目を三日月にして笑った。
紗耶虎もそれを見て安心したようだった。
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