一章〜御城家

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紗耶虎が聞いた噂通り、この日も午前で授業は終了となった。 ホームルーム終了後、早速紗耶虎が席で荷物をまとめている夏織のところへやって来た。 「これも噂なんだけど、何か政府だかなんだかのとんでもなく偉い人が視察に来るんだって。」 紗耶虎が持ってくる噂の出どころはどこなのかは分からないが、意外と信憑性に長けており、命中率は高い。 「そんなにここって凄い進学校だっけ?まぁこの辺じゃトップだけど偉い人が見に来るようなレベルじゃないと思うけど。関東とか大きい括りだったら大したレベルじゃないだろうし。」 夏織は話しながらも荷物をまとめ終えた。 「あぁ、毎度毎度よくまぁしっかり教科書とか持って帰るのね。偉ぁ〜い。ホント、尊敬するわ。」 「そんなん尊敬しなくていいよ。帰ろ?」 「ヨシ、行こうか。」 夏織が席を立ったのを確認した紗耶虎は先に歩き始めた。 夏織はそれについて行く。 「ところで偉い人って何なの?」 夏織は教室から出たすぐ前の廊下で紗耶虎の背中に話しかけた。 足を止めずに夏織に背中を向けたまま紗耶虎は答えた。 「知らないよ、あくまでも噂だし。本当だとしたら夏織の言った通りよくまぁこんなところ見に来るよね。もの凄い大きい私立でもない、こんな公立高校に何の用だってね。それとも神童みたいな天才くんここに居たっけ?」 「さぁね。この辺で一応トップの公立高校だからこの高校で一番っていったらそれなりに凄いんじゃない?それでも偉い人が見に来るなんてほどじゃないだろうけどさ。」 「夏織は二学年五位だからまだまだかな?」 紗耶虎は悪戯っぽい口調で夏織を茶化した。 「うるさいな。だから勉強してんの。大体学年で後ろから数えた方が早い人にまだまだなんて言われたくないですよぉだ。」 夏織も冗談だと分かっているのか、冗談めいた返しをした。 「私は何も無いからね。夢も希望も目標も。だからとりあえず高校に入ったってだけだから。」 「それで…ここに入れたんだから凄い…じゃないのよ…。」 紗耶虎の自虐に、悪いと思ったのか夏織はゴニョゴニョと顔を赤くして返事をした。 紗耶虎は夏織に背中しか見せていないが、その背中は妙な悲哀を感じる。 「ご、ごめん…紗耶虎…。」 夏織は紗耶虎の背中に向かって言った。 聞こえているのか聞こえていないのか分からないが紗耶虎は無言のまま歩いていく。 その時だった。 「ウッ!オェッ!エ゛!」 突然夏織は両手で首を押さえて膝を着いた。
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