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「夏織!?」
「エェ…オェッ!!」
夏織の異変に気が付いた紗耶虎はすぐに後ろを振り向き駆け寄った。
周囲にはまだ他の生徒達もまばらに居てその異変に視線は釘付けだ。
「あれ…御城さん…じゃ…」
「2Aの…ほらあの…」
「あれ、誰だっけ?」
「御城さん…?大丈夫かな…」
声があちこちから聞こえてくる中、紗耶虎は夏織の右脇にしゃがんだ。
そして紗耶虎は夏織の片脇に首を入れて、首を押さえていた両手のうち右手を離して、夏織とともにすっと立ち上がった。
周りを見ると、数人バッグからスマートフォンを取り出そうとしているのが紗耶虎の目に入った。
「撮るな!!助けるならともかく何を撮ろうとしている!!恥を知れ!!このクズが!!」
普段のおっとりとした話し方からは想像もつかない耳をつんざく強烈な声量と怒りに満ちた口調で紗耶虎が怒鳴ると周囲の動きが停止した。
「く、苦しい…よ…オェッ!エ゛ッ!紗耶虎ぉ…苦しい…」
夏織の声で紗耶虎は我に返り、歩みを進め始めた。
「しっかりして!と、とりあえず保健室…まだ先生居るかな。少し頑張れ!」
「ほ、保健室…?あぁっ!ウェッ!だ、ダメ!紗耶虎!それはダメ!!ダメなの!」
「どうして!?」
「ハァハァ…オェッ…ウッ!お願い…紗耶虎…あたしの言う通りにして…。ウ゛ッ…」
夏織はぶらりと垂れ下がった左腕を素早く上げて口を押さえた。
「でも…」
夏織は紗耶虎に連れられて保健室へ向かいながらそれを拒んだ。
押し問答をしつつも保健室へは近付いている。
そして人気がなくなってきたところで夏織は顔を前に向けると、遂に大声を上げた。
「お願い!紗耶虎!お願い…だから…このままだと紗耶虎も!先生も!危ないのぉっ!!だから言う事聞いて!…ハァハァ…お願い…。」
「分かった!!分かったけど!どうすればいいのよ!!私こんなんなってる夏織放っておけないよ!!」
「ヴぉ…ヴ…ぅぉォ…カッ!オェェェ…」
夏織は白目を剥いたかと思うとガクンと下を向き、ほぼ固形物の無い吐瀉物を真下に向かい、まき散らした。
「夏織…どうすればいいの…」
紗耶虎は夏織の吐瀉物を踏みながらも前へ進んでいく。
「…人が…ひ…人ぉ…が…」
「何!?夏織!しっかりして!!何!?どうすればいいの!?」
「…人が…い…な…い…ど…ご…ろ゛に…」
夏織は項垂れ、白目を剥いたままか細い声で囁いた。
階段から上階の騒ぎが紗耶虎の耳に入ってきた。
勉強は致し方がないが、それ以外ではなるべく目立ちたくないという気質であった夏織の事を考えると、このまま騒ぎに飲み込まれるのは夏織の為にはならない、そう考えた紗耶虎は武道場の裏へ連れて行くことにした。
「分かったよ、夏織。連れてったげる。」
「…あり…と…」
「目立ちたくないんでしょ?」
夏織はそのまま保健室を通り過ぎ、武道場を目指した。
「こんだけ可愛くてこんだけちゃんとしてんだからね…もうちょっと楽しんでもバチは当たらないよ…。なのに…夏織はホント…。」
紗耶虎は意識があるかどうか分からない夏織に向かいぶつぶつと文句を言いながら武道場の裏へ向かった。
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