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夏織と紗耶虎は武道場の裏に到着した。
じめじめしているが確かに人はいない。
紗耶虎はそっと夏織の脇から頭を抜いて、夏織の脇腹を支えながら武道場の建屋に夏織の体を預けて座らせた。
夏織はぐったりとして、頭の重さに負けてはいるが何とか座っているという状態だ。
五月末、午後の日光が紗耶虎が見上げた空を駆け抜けていく。
「いい天気だね、ここは暗いけど。」
紗耶虎は立ったまま額に浮かんだ玉のような汗を右手で拭った。
「夏織…大丈夫?」
紗耶虎はしゃがんで夏織の右頬を撫でた。
「…なれ…て…」
「え?何?夏織?」
「は…な…れ…て…あた…しから…。」
夏織は消え入りそうな声で紗耶虎に言った。
「離れろ離れろって何言ってんの?何だっていうのよ…。」
「アグッ!ウッ!うぁっ!あぁ!」
夏織は胸をグンと前に出して悲鳴を上げた。
すると夏織の首元、天突の辺りからシューシューと音が響き始めた。
「はぁ…ハァハァ…ご、ごめんね?紗耶虎…も、もう大丈夫…あたしはもう大丈夫…。ありがとう…。」
夏織は座ったまま顔を紗耶虎に向けた。
疲れ切った表情で微笑んだ夏織は、出産を終えた母親のような神々しさと美しさを醸し出している。
「だ…大丈夫なのは分かった…だけど夏織…その目…は…?見えて…んの…?」
紗耶虎は目を丸くして、拭ったはずの額の汗が再び浮かび始めた。
紗耶虎が指摘した夏織の目は真っ赤に充血し、血涙が流れ落ちるのを今か今かと待ち望んでいるようだった。
「う…ん…見えてるよ…怖がらせてごめん。これね…誰にも知られたくなかったんだ…でも…アレか、紗耶虎にならいいか。」
「ど、どういうこと…?」
紗耶虎の問いに夏織は無言のままYシャツのリボンを取った。
そしてYシャツの上二つのボタンを外して、鎖骨の下、胸元の辺りまで素肌をはだけた。
そこには本来美しく、艷やかな夏織の肌に乗った柔らかい谷間があるはずだがそれが無い。
夏織の天突から縦に20cm程度、横に15cm程度が黄金に輝き、シューシューと音を立てて渦巻いているのが見て取れる。
「ヒドくない?紗耶虎…こんなん…ショックだよ…」
呆れたように、夏織が言った。
「夏織…何それ…。」
紗耶虎はゆっくりと夏織の胸元に手を伸ばした。
「駄目!触らないで!紗耶虎!駄目よ!」
夏織は体を後ろに返して紗耶虎を拒絶した。
「な、何で…どうして…」
「これが…これだから駄目なの…保健室は駄目なのよ…。コレ…コレで皆んな壊しちゃうの…。」
「こ、壊しちゃうって…?」
「壊しちゃうのよ!全部!コイツのせいで!だから…だから…つ、辛いの…」
夏織はそこまで言うと、泣き出してしまった。
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