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「夏織…。」
紗耶虎は何も言えないといった複雑な表情だ。
「あたしさ!お父さんとかお母さんに心配かけたくないの!!あたし小さい頃すんごい体弱くて…病院ばっかりだったの!!ウチ貧乏だったのにあたしのせいでお金ばっかりかかって…ウ…う…うわぁぇぇん…ウッウッ…」
夏織は言いたい事が溢れて制御が効かないようだ。
繋がりの無い言い方で溢れてくる言葉と同時に血涙も一緒に溢れてくる。
真っ赤な血涙が目から溢れてくる様は不気味があるが、夏織の容姿が手伝ってのことかどこか妖艶な美しさがある。
「だから!だからぁ…決めたの…もうあたし…あたしの生き方じゃなくていいって!!お父さんとお母さんの為でいいって!!それなのに!それなのにぃ…」
「夏織…」
「こんなんなったらあたし…あたしぃ…もうやだぁ…やだぁああ…」
「夏織…。」
「紗耶虎にまで迷惑かけちゃったよぉ…うわぁあ…あっあっ…うぅ…。」
「夏織ぅ!!」
紗耶虎は夏織の両頬をバチンと自分の両手で挟んで自分の方を向かせた。
「痛…いだぁいよォ…紗耶虎ぉ…それに…危ないよォ…離れてよォ…ウッウッ…」
夏織の血涙は止まらない。
「危ないよォ…手ぇ…無くなっちゃうよォ…紗耶虎の手ぇ…」
「夏織!私には何でも話せちゃうって!一年生の頃言ったのは嘘だったの!?」
紗耶虎は夏織の両頬を両手で挟んだまま怒鳴りつけた。
紗耶虎ももう止まらない。
「私…あの時本当に嬉しかった!あんな事言われたの初めてだったから!だから私夏織に言ったよね!?私も何でも夏織に話す!だから夏織も私に何でも言ってって!!忘れたの!!」
「違うよォ…忘れたんじゃない…よォ…ウッウッ…違うのよォ…紗耶虎を傷つけたくなかったし…嫌われたく…」
「私がこんなもので夏織を嫌うわけないでしょ!!舐めてんの!?私のこと舐めてんの!?」
「…。」
夏織は黙った。
無言のままヒックヒックと息継ぎをしている。
沈黙の数秒後、紗耶虎が切り出した。
「ごめん…夏織も悩んでたんだよね…。」
「う…ん…」
「ごめん、でも聞いて?私はこんな事で夏織を嫌ったりしないよ?」
「う…ん…でも傷つけちゃうかも…しれないから…」
「傷つけちゃうかもしれないなら尚更ちゃんと言ってほしいな。それに夏織から傷つけられるなら私、それでもいいよ。」
「え…?でも…。」
「えへへ、それは冗談。半分は本気だけどね。さ、ちゃんと話してよ。なんなの?それ。ちゃんと黙っとく。私が死ぬまで、そう、墓まで持っていくよ、絶対に。」
紗耶虎の笑顔に夏織は安心したのか、胸元の黄金の渦は小さくなっていき、やがて血涙も止まった。
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