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「先週の…月曜日だったかな…」
夏織は首を傾げながらYシャツのボタンを留め直した。
泣き止んだばかりなので呼吸は少し乱れているが気持ちは既に落ち着いているようだ。
「私に珍しく付き合ってくれた日?」
紗耶虎は夏織の顔を覗き込んだ。
「珍しくは余計だよ…今ぁ…そんな意地悪言わないでよォ…うぅ…」
夏織は目に涙を溜めた。
血涙ではない、透明な涙だ。
「あぁ、ア…ハハハ…ごめん、意地悪言うつもりはなかったんだよ、ごめん。んで?」
夏織は溢れそうな涙を人差し指で拭うと、ヒックヒックと呼吸しながらもすっかり乱れてしまったトレードマークであるエルフ風の髪を直し始めた。
すると悪いと思ったのか、紗耶虎は大きめのコンパクトミラーを胸ポケットから出して夏織が映るように前に差し出した。
「あ…りがと…」
「んで、続きは?」
「うん…」
夏織は髪を直しながら話し始めた。
「あたしはさっきも言ったけど、小さい頃本当体弱くて…んで中学、高校にもなるとやっぱり家に居る時間て短くなるじゃん?そうするとやっぱりお父さんもお母さんも心配なんだろうね、色々うるさくなってきて、厳しくなってきて…。」
紗耶虎は話を聞きながら、目を伏せた。
なんとなく自分が悪いような気がしてきたからだ。
「それはでもね…あたしも分かるの…。理解して…だから何も言うつもりは無かったの…素直に従おう、そう思ってたの…そうしてきたの…。でも…先週の月曜日…本当に久しぶりに紗耶虎と遊んだよね…。本当に楽しかった…んでね?凄いなって思ったの。」
「…な、何が…?」
紗耶虎は目を伏せたままだ。
「紗耶虎が…」
「どうして!!」
紗耶虎は夏織が自分のことを言おうとしたのを遮るように声を荒げた。
夏織の目に再び涙が浮かんできた。
「ごめん、さっきから…私おかしいわ…も、も…もう黙ってる…ごめん、最後まで話して…。」
「うぅ…。」
「泣かないでよ…本当にごめん…。さ、最後まで話して…。」
「うぅ…うん…分かった…。」
この後夏織は御城家の闇と、先週月曜日の異変に全て紗耶虎に打ち明けた。
「墓まで持っていく」と宣言した紗耶虎はその事を悔いる事となる。
一章 「御城家」〜完〜
二章 「黄金の刃」へ続く
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