後編【朱き曼珠沙華の呪術師】

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後編【朱き曼珠沙華の呪術師】

退()け、お前と遊んでいる暇は無い、火解呪曼珠沙華!」 曼珠の周りに炎の曼珠沙華が咲く、炎が一斉に法師に襲い掛かる。 直撃し、燃え上がる法師だが、法師の体の周りには水球が発生し、それに包まれていた。 水球が曼珠の炎で蒸発して水蒸気になって立ち上る。 「やれやれ、せっかちな小僧だ、危ないではないか」 「なっ、手加減したとはいえ俺の火解呪が効かないっ?!」 彼は強行突破をしようと、屋敷の階段を駆け上ろうとした。 「そんなにあの小娘に会いたいのか?」 玉姫が悔しさで爪を噛み、手を二度叩くと女房が縄で縛られた、咲弥を連れて来た。 「曼珠さんっ!」 「咲弥、今行く!」 「待て、おとなしく、わらわの夫となるなら娘を放してやる。さもなくば、この小娘を殺すぞ」 姫が咲弥に小刀を突き付ける。 「断るッ!咲弥を返せ」 「どうやら、話が通じぬらしい。やれ」 姫は冷酷な表情で、法師に咲弥を殺めるように命じた。 法師が術を唱え、水球を発生させる。 法師の発生させた水球は、咲弥を呑み込むと彼女は水の中でもがき苦しむ。 「やめろ!殺すなら俺を殺れ」 曼珠は怒りに震え、術師の法師を火力の上げた火解呪で攻撃した。 「ギャアアッッ!!」 あっと言う間に法師は燃え上がり、地面に倒れこと切れた。 咲弥を呑み込んでいた水球は、法師が倒されると形を失い彼女は床に倒れた。 「ほほほ、それ以上、近づくとこやつを刺すぞ!」 仄暗い(ほのぐら)笑みを浮かべながら、玉姫は咲弥に刃を向けた。 ぶちっ…!曼珠の中で何かが切れる音がした。 最早、逆上した曼珠の耳には、姫の声等届いてはいなかった。 彼は疾風迅雷(しっぷうじんらい)のごとき速さで駆け抜け、小刀を叩き落とし、姫を蹴とばすと咲弥をかっさらった。 「咲弥、しっかりしろ!」 彼は咲弥を抱き起し、必死に呼びかけ、彼女の頬を軽く叩いた。 しかし、咲弥は法師の水球の中で既に溺死していた。 彼は顔面蒼白で号泣する、女房達が姫を守ろうとナギナタを構える。 激しい怒りと悲しみで、暴走した己の力を制御出来なくなった曼珠から、無数の紅蓮の曼珠沙華が咲き誇り、姫共々屋敷を焼き尽くした。 その様子は冥府に咲く曼珠沙華が、屋敷を埋め尽くし、揺らめいている 怪しくも、美しい悲しき光景であった。 彼の呪術師を決して、激昂(げっこう)させてはならない、必ず地獄を見る事となるであろう。 それが、忌み名“曼珠沙華の呪術師”の由来である。 曼珠は咲弥を抱いて、屋敷を静かに後にした。 ◇ 彼は、咲弥を抱きながら山道を歩いていた。 「ごめん咲弥…俺の生命を全て、君に捧げよう。君はこんな所で死んでいい人じゃない」 曼珠は咲弥のまだ、温かさが残る唇にそっと、口づけをして生命を注ぎ込んだ。 咲弥の体が淡く輝く、すると、ゆっくりとまぶたを開けてその目に曼珠の姿を映した。 彼はその事を確認すると力尽き、地面に倒れ伏した。 「曼珠さん、しっかりして!ああ…私の為に」 しかし、咲弥は迷わず曼珠に口づけをし、生命を分け与えた。 彼の魂は冥府から返り、起き上がると咲弥を震えながら叱る。 「何て事をしてくれたんだ!これじゃ、君の寿命が…」 「良いのよ、曼珠さん。だって、貴方がいなかったら生きていても仕方ないもの」 咲弥は柔らかな微笑みを浮かべ、彼の頬に口づけをした。 「長くは生きられないかもしれないが、咲弥、俺の妻になってくれ」 「はい、喜んで曼珠…」 曼珠と咲弥は、暗闇の中、金色(こんじき)に輝く満月の光を受けながら口づけを交わした。 -了- ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ここまでお読み頂いてありがとうございます。 次回、完結編で終了です。
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