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「そりゃあ、月の女神セレーネじゃないか?」
次の日、僕は友人のフレイと食堂で昼食を食べながらその話をした。
するとフレイからそんな言葉が返ってきた。
「セレーネ?」
「森を守る女神だよ。守るというか、動物たちの話し相手になってあげてる存在だな」
「そういえばたくさんの小動物たちとなんかしゃべってた」
動物たちの話し相手というなら納得だ。
「ラッキーだな、お前。セレーネは滅多に人前に姿を現さないんだぜ?」
「そうなのか?」
「姿を見れただけでもかなり幸運なのに、まさか話しかけたなんてな」
フレイは巨大な肉にかぶりついてもごもごと口を動かしている。
そんな話を聞いたあとじゃ、僕はそんなに食べる気が起きなかった。
そそそっと、目の前に置かれた肉の皿をフレイの前に置く。
フレイは何も言わずに僕の肉に手をつけた。
「でもすぐに逃げられちゃったよ」
「そりゃ逃げるだろ」
「なんで?」
「セレーネは恥ずかしがり屋なんだ」
言われてみれば。
確かに消える瞬間、恥ずかしそうにしていた。
「まあ、もう一度会おうと思っても会えないだろうさ。月の女神セレーネを目にするなんて、一生に一度あるかないかだからな」
フレイはそう言って、僕の差し出した肉の皿までペロリとたいらげたのだった。
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