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なんだ? オレンジ色のふわふわした固まりが坂の上から転がり落ちてくる! ふわふわして見えるのは、フリルやプリーツがいっぱいついた、膨らんだ布のかたまりで、それが上から駆け下りてくる。布のまん中に、女性の顔が見えて、ようやくオレンジ色の布が豪奢なドレスだとわかった。
猛スピードで突進してくるドレスをよけるため、いつきと早苗は反射的に坂道の両側に飛びのいた。二人の間をオレンジの色のフリフリが過ぎていく。疾風、そして鮮やかに眼前を乱舞する色彩。
――いいな。
いつきの胸になにかが突き上げてくる。なんなの、これ?
ドレスが通過し終わって、反対側によけていた早苗が見えた。棒を飲んだみたいに硬直している。
早苗、大丈夫? いつきが肩をつかんでゆすっていると、坂の下で声がした。
「どう? わたしの走り、ちゃんと撮れた?」
オレンジ色のドレスの女性が、スカートの裾をつまみあげて回っている。彼女の前に、熊の着ぐるみを着た男がカメラを構えていた。
「グーよ、グー。これで俺らのチャンネルの登録者もまた増えるぜ」
「テディベアさん、ちょっと休憩させて。このドレス暑いんよ」
いつきは思わず声を上げた。
「牧村先輩!」
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