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牧村は、テーブルに両肘をついて身を乗り出した。
「前橋、アカツキにまだいる気か? いつ辞めるんだ」
「それは……」
「わかっているだろう。アカツキ製薬はもうおしまいだ。倒産が近いって、言われている。みんな逃げ出して、退職者が続出しているじゃないか。残っている社員たちも帰休が続いて働けない。給料も減らされて生活が苦しい。それでも会社にいる意味があるか?」
《天びん秤》さんを見つけたい。でも。
「会社なんてクソだ。メーカーはクソだ。あそこにいたら、お前の個性は死んでしまう。俺のところに来い。自由にやれるぞ。お前の考えや個性を活かしたチャンネルを作って、もっとアクセスを増やして収益も上げるんだ。これはマジで言ってる。お前が必要だ。真剣に考えてくれ」
「話、まだ?」
外のテラスから、ドレスのタレントが声をかけてきた。
「撮影しないと、わたし次の仕事あるし」
「わかった。じゃあ前橋、頼んだぞ」
熊の着ぐるみと入れ替えに、ひきつった表情の早苗が入ってきた。
「いつき、あの人とユーチューブするの? 会社辞めないよね」
早苗の目が吊り上がっている。
「ユーチューバーにはならないけど……アカツキ製薬は辞めようか、と思っている」
え、の形に口を開いたまま、早苗は固まってしまった。
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