受験生とタイマーさん

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 私の高校はバカ高校だ。高校受験のとき数日にわたり熱を出してしまい試験を受けられず、定員割れしていたところに入るしかなかったのだ。  クラスのほとんどが就職の道を選ぶ中で、私は一人受験の道を選んだ。先生方は優しく教えてくれるけれど、やっぱりすべてを見てくれるわけじゃないので独学は必要になる。塾に通うお金はないと両親には言われている。  辞書みたいな数学Ⅲの教科書を見ながら、私はぼやく。 「なんで楕円なんか求めなきゃいけないの? こんなことやって、何になるのかなぁ」 「……」  タイマーさんは考えている。私は彼を困らせてしまったかもしれないと申し訳ない気持ちになる。  少しの間ののち、彼は私に尋ねた。 「でも、大学には行きたいのでしょう?」 「そうだけど……」 「赤本を見て、問題を見てみてはいかがです? そこに楕円の問題が載っていれば、もしかしたらやる気が出るかもしれませんよ」  その提案に同意し、私は本棚から第一志望の大学の過去問を取り出す。数か月前のオープンキャンパスで購入したものだ。こちらもなかなかに分厚い。  パラパラとめくると、確かにそこには「楕円」の文字があった。 「タイマーさん、楕円ってあったよ」 「そうでしたか。でしたら、この問題を解いて得点を得るためには、楕円の勉強が必要ですね? ……合格するためには、必要ですね?」  私は頷く。赤本をしまう。 「少し……やる気が出てきたよ。ありがとう、タイマーさん」 「いいのですよ、このくらい。紬さんの集中と休憩の管理、そしてやる気の管理も私の仕事ですからね」  ふふ、と彼は優しく笑って「もうそろそろ五分経ちますね」と告げる。 「応援していますからね」  私は席に着く。スマホのタイマーを一時間にセットして、さっきの続きを始める。  いつの間にか私は集中していて、タイマーさんがどこに行ってしまったかなんて忘れてしまっているのだった。  彼はさっと現れてふっといなくなる。でも、そのくらいがちょうどいいのだ。
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