1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
タイマーがぴぴぴと鳴る。スマホに映し出された停止のボタンを押す。
しかし私の頭はまだ「勉強をしたい」という欲望であふれていた。シャーペンを持つ手が、ページをめくる手が止まらない。
「おやおや、紬さん。お休みの時間では?」
男性の声にハッとなる。
「でも、ここまでだから! やっちゃいたいの」
そう答えると、後ろでため息が聞こえた。すらすらとノートを走る私の右手に、彼の右手が重なる。その手は大きく、白い手袋をしていた。布の感触が冷たい。ぴたり、手が止まる。
「休憩は大事ですよ。キリが悪い方があとからやりたくなりますし、まずは休みましょう」
「でも……」
「あと一時間やりたいでしょう?」
「それは……」
念押しするように「ね?」と優しい声が降ってくる。私はうなったのち、ペンを置いた。
振り返ると、そこにはタイマーさんがいた。懐中時計の頭をした男性だ。
「まずは水分補給をしましょう」
水筒から水を飲む。もう中身は半分以下だ。
「それから、椅子から立って、伸びをして」
タイマーさんの言うとおりに動く。体を動かすと幾分か疲労は軽減した。ヒートアップしていた頭が冷えてくる。
「よろしい」
上機嫌な声がした。私はストレッチをしながらタイマーさんの隣に立つ。
「ねぇ、タイマーさん」
「どうかしましたか、紬さん?」
「あのね。勉強の意味、あるのかなって」
「受験をするためでしょう?」
「そうなんだけどさ」
タイマーさんは「何かあったのですか?」と心配そうに聞いてくる。
最初のコメントを投稿しよう!