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26年前カイと初めて会った時、正直印象が悪かった。
カイは歓迎してくれてなかった。
光は、
「あいつはああ見えてエエ奴やから。」
としか言わなかった。
最初は三人で光の家で音出したりして、何となく遊びの延長だったのが、メンバーが増えていって段々本格的に形になっていった。
カイは面倒見がよくて、新しいメンバーがくる度に歓迎会をした。
カイのことを理解するまでにそんなに時間はかからなかった。
シャイで、無口で、一見冷たそうに見えるけど一番みんなのことを考えてる。
ほんまは優しくて情に厚い。
不器用やから伝わりにくいけど。
どこにいてもカイのことはすぐに見つけられた。
三人で遊んでた頃は光が真ん中にいて、俺とカイを繋ぎ合わせてくれてた。
でも光がいなくなったら、もしかしたらもう...
そんな不安の中、光の送別会の帰りに初めてカイの家に行った。
俺は珍しく緊張してなにも話せなかった。
だけどカイに、
「光のこと好きやったんやろ?」
と言われてプチっとなにかが切れた。
酔ってるふりして襲いかかったら簡単に俺を抱きよった。
何でなのかは分からん。
でも抱かれてる間は幸せやった。
それから俺はカイの家によく押し掛けた。
別に抱いてほしかった訳じゃない。
二人になりたかっただけ。
多分、カイはまだ勘違いしてる。
光のことが好きで、寂しいから自分に甘えてきてるんやと思ってる。
でもそう思わせてた方が都合がいい。
俺がもし本気でカイのことが好きやと知れたらきっと突き放すと思う。
そういう奴や。
それが優しさやと思うに違いない。
その反面、俺は会うたびに淡い期待を抱くようになった。
もしかしたらカイも俺のこと少しは好きなんちゃうか?
それは俺に触れる時の目があまりにも優しすぎるから。
そんなん俺にだけじゃない。
そう言いきかせてる。
でも俺はアホやからつい期待してしまう。
そんな自分が嫌いやった。
俺がカイを好きなことを知ってるのはギターの颯太だけ。
颯太は勘が鋭いから、カイとヤッたこともすぐにバレた。
「ちゃんと好きやって言うたん?」
って聞かれて首を横に振ると、
「それでええん?このままやとただのセフレやで。」
と優しくいなされたのが余計に怖かった。
颯太は年下やけど俺よりしっかりしてる。
「分かってんねんけどな。でも何て言うか。」
「まぁそやんな。相手があのカイくんやからなぁ。」
「うん。いつかは終わらせなあかんと思ってる。そのときが来たら。」
「でも俺から見たら槙緒くんよりカイくんの方が重症やけどな。」
「え?」
「光くんがいなくなってから何か分からんけど隠さなくなったんよな。」
「何を?」
「んー?秘密。」
なんやそれ。
確かに光がいなくなってからカイは変わった。
なんというか前より話しかけやすくなったというか、丸くなったというか。
光がおった時は光にしかほんまに心を許してないように見えた。
俺らは蚊帳の外というか。
光が辞めるって言うた時、内心カイも辞めるって言うんちゃうかってヒヤヒヤした。
実際、考えてたと思う。
でも二人で話した時、俺が
「俺は続けたい。光がおらんくなってもみんなでバンドやりたい。俺にはこれしかないから。」
って言うたからカイは辞めるって言い出せなくなったんやと思う。
いや、そうなるって分かってて俺はそう言うたんや。
カイの側におるにはそれしかなかった。
俺は今まで何かに執着したりしたことなかった。
来るもの拒まず、去るもの追わず。
去るならそれは運命や、そう思ってた。
みんなにドライやなって言われたし、自分でもそう思う。
でもカイのことだけは別。
辞めるって言い出したのがもしカイだったら俺はどんな手を使っても引き止めた。
情けなくても泣いて引き止めた。
どう思われてもいい。
「お前、ひとつだけ願いが叶うとしたら何願う?」
カイの家に行った時そんなことを聞かれた。
「なんやろな。金かな?無限にお金下さいって言うかな。」
「金?お前夢ないな。」
「じゃあお前は何願うねん。」
「俺は満足して死にたいって願うかな。」
「満足?」
「そう。死に際になんも思い残すことない。やりきったって思いたい。」
「ふーん。でもそのためにも金は必要やん。金があったら海外でライブもできるで。」
「まぁ、そうやけど。」
「でも金では手に入らんもんの方が価値があるよな。結局、死に際に思うのはそれを手に入れられたかどうかかもしれんな。」
俺がそう言うと何も言わずに俺を引き寄せた。
何考えてるんやろ?
こいつは俺の事どう思ってるんやろ?
そんなことをグルグル考えるのにはもう飽きてしまった。
どーでもええ。
そう思う方が幸せやと思うようにした。
「レギュラーでラジオの仕事きたんですけど、受けますか?」
ある日マネージャーが満面の笑みで俺とカイに話をもってきた。
「俺とカイで?」
「はい!」
「俺はやるけど。」
カイの方を見ると、
「ええよ。なんでもやらな。」
と受けた。
断るかと思った。
ラジオの仕事が始まってから、何となく俺はカイの家に行きにくくなった。
家に行かなくてもラジオで二人で話せるし。
なんなら前よりちゃんと会話してる。
お互い別に打ち合わせしなくても上手くやれてる。
ラジオが始まって2年。
結構好評で、おかげでファンも増え、仕事も増えた。
ホールでライブできるまでになった。
俺とカイは完全にビジネスパートナーになった。
それが本来の俺たちの在り方だと自分に言い聞かせてた。
ラジオのおかげで一人での仕事も増えた。
カイは役者の仕事をやるようになった。
他のメンバーも掛け持ちで他のバンドを結成したり。
それぞれが充実してる。
でも俺は時々孤独になる。
カイの温もりが恋しくなる。
だからと言って他の誰かを代わりにすることもできない。
一人の夜を乗り越えるためにお酒を飲んだり、友達と遊んだりした。
一瞬は紛れる。
そうやって騙し騙しやっていくしかない。
こんなことならあの日、カイに抱かれなければよかった。
そしたら俺は楽やったかもしれんのに。
そんな思いはラジオブースでカイと向き合うと全部吹っ飛ぶ。
不思議なものだ。
二人で喋ってる二時間が俺にとって一番幸せな時間やった。
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