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退院してそのままの足でカイの家に行こうかとも思ったけど止めた。 ラジオの日まで取っておこうと思った。 楽しみは先延ばしにしたい。 のと、今すぐ行っても何かなぁと思って。 でも今思えばやっぱり行っとけば良かった。 ラジオブースで待ってるとなにか言いたげな顔でカイが入ってきた。 でもいつものごとく何も言わない。 ラジオが終わり、俺は何も言わずにカイの後をついて車に乗り込んだ。 そこでやっと口を開いた。 「なんで来んかったん?」 「いや、ラジオで会うしなと思て。」 「そらそうやけど。」 「怒ってる?」 「怒ってはないけど。」 「もう嫌になった?」 「え?」 「時間が経って冷静になったら、」 「ならへん。なに言うてんねん。」 「そっか。なら良かった。」 「お前、俺の事分かってへんな。まぁ俺もお前の事分かってへんのかも知れんけど。」 そんな会話をしてるとカイの家に着いた。 2年ぶり。 ソファが新しくなってる。 テレビもちょっと大きくなったかな。 と見回してると後ろから抱きつかれた。 「そうや。お前に言うとかなあかんことある。」 「なに?」 「俺、ラジオやめる。」  「え?!」 驚いて振り返ったら頭突きしてもた。 「いたっ!」 「ごめん、いやラジオやめるとか言うから。」 「お前と話すのは楽しいけど、別にラジオブースの中じゃなくてもいいし。こうやって二人の時間ができるんなら必要ない。」 「まぁ。でも俺一人は嫌やで。」 「三人の誰かに頼もうと思ってる。」 「それなら。」 「後は二人で話してるとこ誰かに見られたり聞かれたりするのはずいし。」 「俺全然平気やけどな。」 俺がそう言うと不服そうな顔をした。 「まぁでもええんちゃう?カイが決めたことなら。」 「仕事とプライベート、ちゃんと分けたいねん。でも別に二人でおる時に仕事の話するのはええよ。」 「それは俺が嫌やわ。二人でおる時くらい仕事の話は抜きにしたい。」 「まぁ、そやな。」 昔から照れると耳を触る癖、変わってない。 この人の全てが愛おしいと思うようになったのはいつからだろう。 「なに考えてんねん。」 「んー?そやな...俺はいつからかお前になら何されてもいいって思ってた。」 「は?」 「傷つけられても、側におれるならいい。そう思ってた。」 「俺、お前のこと傷つけた?」 「いや、なんやかんや言うていつも優しかった。だから怖かった。」 「なごり雪みたいなこと言うなよ。」 「ホンマやな。」 俺が笑うとカイは俺を抱き寄せた。 「俺は光に嫉妬してた。光は俺にないもん全部持ってたし、お前が光を好きなんは仕方ないって思ってた。」 「そもそも、俺光のこと好きちゃうからな。お前が勝手に勘違いしてるだけで。」 「ええて、もう嘘つかんでも。」 「いや、ほんまや!お前が勝手に勘違いしただけや。」 「え?」 「俺はずっとお前しか見てなかったよ。」 「ほんまに言うてるん?」 「好きじゃない奴に抱かれるほど俺はアホちゃう。」 「...お前分かりにくいねん。」 「お前に言われたないわ。」 そんな漫才みたいな会話をしてロマンチックにもなれないのに、俺は久しぶりにカイに抱かれた。 はじめての時のことは正直頭が真っ白で、緊張し過ぎててほとんど覚えてない。 だけど今回は違った。  自分でも不思議なくらい落ち着いてた。 カイが俺のことをちゃんと見てくれてるのが分かった。 「そんな目で見んなよ。」 「え?」 「余裕ないのに余計余裕なくなるやんけ。」 「余裕ないの?」 「無いに決まってるやろ。」 「大丈夫や。俺やで?」 「なに言うてんねん、お前やからやろ。」 「...お前、俺が思ってる以上に俺のこと好きなんやな。」 「な、なに言うてんねん!」 「じゃあ嫌い?」 「めんどくさい質問すんな。」 「...俺ばっか好きなんやと思ってた。ずっと。」 「そんなん言うたらお前だって誰とでもすぐ仲良くなるし、俺なんておらんでも楽しそうにしてるから、」 「そら楽しいよ。でも、お前は特別。お前とは楽しいときも楽しくないときも一緒におりたい。お前とおる時が一番おもろいから。」 「そうか。」 「俺がお前のこと嫌いになることなんて一生ない。だから嫌われるのがずっと怖かった。」 「俺はお前にがっかりされるのが怖かった。ずっとカッコつけてたいけど、カッコつかんし。」 「まぁ、今も真っ裸で何してんねんて感じやもんな。」 「何であの時、あんな軽々しくお前のこと抱けたんか分からん。」 「酒の勢いやろ。あとなんも考えてなかったし。」 「今は大事に思いすぎて抱くのが怖い。」 唐突にそんなこと言うから急に恥ずかしくなった。 俺はカイの手を握った。 カイも握り返した。 めちゃくちゃにしてほしいと思ってたのにやっぱりカイは最初から最後まで優しくてむず痒かった。 シャイで口下手で不器用だけど、出会った時から今までなんだかんだずっと優しかった。 俺が実家で飼ってた猫が死んだ時も、なにも言わないけど側にいてくれた。 バンドが結成してから少し距離ができて、あまり話さなくなった時期はあったけど。 あの頃が一番寂しかった。 でもそういうものかと思って諦めてた。 近いのに遠い。 このままもう目も合わない、触れることもないのかもしれない。 そう思ってた。 光が辞めると言った時、俺たちは久しぶりに目が合った気がする。 だから光には感謝してる。 実は光には結構前からバレてた。 「あいつもお前のこと意識しすぎてどうしたらええか分からんのやと思う。」 と言われたけど、それにしても冷たすぎると思ったことがある。 他のメンバーには、特にベースの凌平とは仲良く喋って笑ってるのに。 凌平に嫉妬してる自分が悲しくなったり。 だから見ないようにしてた。 視界にいれない。 いないものとすれば平気。 そう思いすぎて俺は本当にカイの存在を自分から消そうとしてた時期もあった。 俺も俺でカイを傷つけたのかもしれない。 カイがあの頃どう思ってたのか、知りたいけどまだ聞けない。 今はまだ、ただ隣で無防備に眠るカイがここにいることだけでいい。 起きたら元に戻ってるなんてこと、ありませんように...。
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