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居酒屋での会話は盛り上がった。
二人は嫌いで別れたわけではなく、将来を心配してお互いが身を引いた関係だ。気心知れた空間は心地よく、時間はあっという間に過ぎていった。
「すみませーん。ラストオーダーですが、頼み忘れありませんかあ?」
個室の襖をノックした軽い感じの若いスタッフに、ビールを二杯追加できるか聞いた。
「お客さんは飲み放題なんで、本当は空のジョッキと交換なんっすけど、店長いないんでいいっすよ」
「わあっ、ラッキー」
「今日は恐ろしいぐらいついているなあ」
「いいじゃん。素直に感謝しないと幸運の神様もいじけちゃうよ?」
「そうかなあ」
お酒の好きなココと、お酒に強いシンが注文したビールは、四時間で八杯。まだジョッキの半分ほどビールが残っていたけれど、ペースの速い二人にとって水と同じで、最後のジョッキは、飲み終えた後でも冷えていた。終電は随分前に通過していて、行く当てもない二人は、閉店後に街中を散歩することにした。
「ううっ、さむっ」
外は鼻がツンとするほど冷え込み、吐く息も白い。シンは首に巻いたマフラーで鼻まで隠し、ポケットに手を入れ暖をとる。
「もう。シンったら、天気予報確認しないの?今日はすっごく冷えるって言ってたじゃん」
「え、そうなの?俺、朝の気温しか気にしてなくて。朝も暑かったし、こんなもんでいいかなって思った」
苦笑いをするシンにココは微笑む。恋をしているような懐かしむような瞳で見つめるココの視線に、気付かないふりをしてやり過ごす。
(ココのことは女性として好きだけれど、性的対象じゃない。俺がココの恋愛対象ならば、その想いに答えられないと伝えよう)
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