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僕と乃蒼が初めて出会ったのは満月の夜。人は第一印象が9割と言うが、確かに出会って2年たっても、あの時の印象は色あせていない。
その日は大学内でサークルの新歓コンパがあった。夜のキャンパスは酔っぱらった大学生でさざめいていた。あいにく僕が所属している映画サークルはそんな賑わいとは程遠いF棟にある。他の棟は比較的密集し、カフェやコンビニ等があるのに対し、F棟の周囲は農学部が所有する牧場や田畑に包まれていて、こんな日でさえ人なんてほとんどいない。そんな裏さびれたF棟の部室で僕らは新入生の勧誘をあきらめ仲間内でフランス映画を鑑賞する予定だった。
だから、酎ハイの買い出しから戻る途中、誰もいないと思っていたF棟の前で乃蒼に遭遇した時は本当にびっくりしたのだ。
「に、人間?」
僕が乃蒼に発した第一声だ。月明かりに照らされた乃蒼は実在を疑うほど美しかった。
「B棟の203はどこですか?」
僕の間抜けな発言を乃蒼は優秀なアンドロイドのように見事にスルーし、変わりに最も人間らしい道を聞くという質問で、自分の実在を証明した。
「あ、一年生?ややこしいよね。203は正反対だけど、B棟もコンパはやってないよ。うちの教授がそういうの嫌がるからね」
「一年じゃなく2年。編入してきた。コンパじゃなくて忘れ物」
高鳴る心臓を自覚せずにはいられない僕に対して1mmも表情を変えない乃蒼。物の怪の類かCIAの特殊部隊で笑わない訓練を受けているのかどちらだろうかと疑うほどだ。
「B203ってことは君も心理学の学生かな?僕は3年の村瀬類類。よろしくね」
乃蒼は黙ってうなずき、そして僕が指さした方向に去っていったのだ。長い黒髪に桜の花びらが一枚ついていた。幻想的な出会いである。
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