出会い

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 その後、乃蒼の存在は学内でも有名となった。心理学部に笑わない美女がいる。教授が一目ぼれして入学できた、声を聞いたら魂を抜かれるらしい、実は凄腕の殺し屋で学長の命を狙って編入してきた。現実味をかけ離れた乃蒼の噂は尾びれ背びれがついて、学校中を一人歩きしていた。  そんな噂ばかりが先走る乃蒼だが、僕は乃蒼にある一貫した美しさに心を奪われた。それは容姿だけではない。  例えばレポート。僕は乃蒼のレポートは実に潔い。装飾のない簡潔な文章で、論点にぶれがない。僕が指導を受けている磯貝教授はレポートが多いことで有名だった。常時1万字のレポートを出す。僕を含め大概の学生は1万字に到達するように、言葉の装飾を多用する。やたらと回りくどい言い方をしたり、接続詞を多用したり。とにかく薄い内容をいかにボリュームある文章にするかがカギなのである。それなのに、乃蒼のレポートはそんな小細工は1mmもなかった。乃蒼の外見と同じように、装飾は一切なく、簡潔でわかりやすかった。
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