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「先輩、映画サークルは毎日夜までするんですか」
初対面以来、特に会話らしい会話もなかったのだが、僕の姿を見つけると乃蒼は唐突に映画サークルのことをきいていきたのだった。
「毎日じゃないよ。今日は次の上映作品を俺が選ぶからたまたま遅くなっただけ。週一の活動だし、ゆるいサークルだよ」
この時の僕の気持ちは困惑の方が勝っていた。まっすぐな乃蒼に見合っただけの活動をしていない、怠惰なサークルだったからだ。
「入ります」
学内一の有名人である乃蒼が選んだサークルはまさかの部員5人、その全員が社会のエキストラ要員のような我らの映画サークルだった。
かくして乃蒼は6人目の映画サークルの部員となったのだが、彼女は驚くほど映画を知らなかった。新作はもちろん、名作と呼ばれる映画もハリウッド、日本、フランス、韓国もアニメも、何も知らなかった。
「今まで映画見たことがなかったから」
羞恥心も気まずさも1mmも感じさせずにいうところが乃蒼らしい。
「一度も?映画館じゃなくてテレビでも?」
「ない」
ニコリともしないで食い気味に答える乃蒼。なぜうちのサークルに入ったのか疑問しかないが、幽霊部員ではなく、活動の日にはきちんと参加する真面目な部員であった。
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