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乃蒼の卒論が提出目前で杏奈に乗っ取られたのだ。乃蒼の錯覚に関する卒論は学内1位はもちろん、学会に出しても恥ずかしくない内容だった。院生として指導してきた僕も何度も読み直し、一語一句どころか夢にまで出てくるレベルだった。それがどういうわけか、年が明けた2月、杏奈の名前で提出されたのだ。
そんなことがあっていいわけがない。できるわけがない。なぜなら指導教官がいる。ずっと乃蒼を指導し、評価もしてきた磯貝教授。だから、卒論乗っ取り事件において、磯貝教授はまずクロだ。なぜ磯貝教授がそんなことをしたのか。それは乃蒼が大学院を受験するにあたり、磯貝教授とは別の教授を志望したからだろう。それまでも幻覚を主に研究したい乃蒼と教授の間に溝ができていた。それで乃蒼は別の教授を志望したのだが、その相手が磯貝教授と犬猿の仲で有名な教授だった。面目をつぶされた磯貝教授は乃蒼を卒業できなくしたのだ。
このような経緯なので留年しても恐らく卒業は無理だ。そこで乃蒼は誰に相談することもなく退学届けをだし、アパートを引き払ったのだ。
恐らくこの事件を乃蒼以上に怒り、嘆き、悲しんでいる人物は僕だ。僕は僕の中にある憎悪を認知し、復讐計画を練っていく。何日も部屋に閉じこもり、どす黒い思いが胸を占領していく中でひたすら練り上げた復讐計画だが、実際に実行に移すことはなかった。
1本の動画と出会ったのだ。
それが「証明のレクイエム」だ。
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