タイマン戦 国語VS社会

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「過ちは牙を向く――」 オーラが浮かび上がった。まるで壊れたテレビのように周りにノイズが走っていく。 「決して忘れるべきでは無い忌まわしき記憶――」 圧があった。威圧感だ。それと圧倒的なオーラ。東大寺盧舎那仏像を出現させた時よりも大きいオーラだ。 それは画面越しで見ていた人たちにも伝わった。映像で見ているだけ。なのに岸田文雄は額から滝のように冷や汗が流れている。 「地獄の様相は世界をも包み込む――」 空間にヒビが入った。いわば世界にヒビが入った。明らかな異常。現実空間は壊れていく。なのに銀杏が動いている気配はない。 (なにかするならしてこい――もう手遅れだがな) この異常空間を作り出した本人は笑っていた。なぜなら確信しているから。――自分の勝利を。 「我がここに災厄の大戦を呼び込もうぞ――」 「――『W o r l d w a r 2(第二次世界大戦)』」 ――能力の頂点とも言える技術。天才のみに許された現実、物理法則の改変。その名も『極技』という。 能力を与えられた全員が持つ言わば必殺技。その力を最大限に活用すれば1回の使用で戦況を大きく変えることも可能。 武蔵の場合は現実を塗り替えて一時的に固有の世界を作り出す『新世界型』と呼ばれる極技。 今回の場合は極技で第二次世界大戦の世界を作り出したのだ。それも熾烈を極めたとされる硫黄島の戦い。 爆撃が辺りを吹き飛ばし、機関銃が常に鳴り響く。肌に照りつける日差しはもはや火薬の熱に変わっていた。地獄の様相。詠唱の時に唱えた光景と寸分も違わない。 「――見えたな」 目の前にあった氷は消え去り、その場で立ち尽くしている銀杏の姿を視界に抑えた。 「終わりだ。何を考えてたかは知らないが、この状況じゃお前に勝ち目はない」 この世界で起こる銃撃や爆撃、兵士による近接攻撃は武蔵に当たらない。当たるのは世界内にいる兵士と世界に引きずり込まれた相手のみである。 あらゆる場所で行われている戦闘。世界を塗り替えているので逃げることはできない。つまるところ――。 「――俺の勝ちだ」 ――この戦いでの誤算。それは想定以上に銀杏が計算高かったことだ。武蔵は銀杏の戦闘能力を評価していた。しかしそれ以上に銀杏の思考は高水準であった。 事前に極技があるというのは説明で知らされてある。そして自分の極技の概要も教えて貰っていた。だから待っていたのだ。このような時を。 「天上天下唯我独尊――」 詠唱が始まる。瞬間、武蔵の背中に嫌な汗が走った。 (さっきとは違う詠唱……まさか極技か!?) 新世界型は強力な極技だが、決して対処法が存在しないわけではない。 1つ目の対処法は耐えきること。世界を侵食している都合上、使用者の体には大きな負担がかかる。なので長時間の展開は不可能。さらに使用後は著しく体力が低下する。 2つ目は使用者を戦闘不能に追い込むこと。展開している使用者の力が無くなれば世界も維持することができなくなる。 そして3つ目は――同じ新世界型の極技で塗りつぶすこと。技の強弱に限らず、新世界型の極技はが優先される。絵画と同じだ。乾いた後に新しい絵の具を塗ればそちらが優先される。 「胡蝶にて奈落、遊宴にして死滅――」 この情報は事前に知らされていた。だから最初から警戒していたはずだ。なのに今の今まで武蔵は忘れていた。その理由はただ一つ。それが銀杏の策略だからだ。 目まぐるしく変わる景色。そして常に優位な状況。壮絶な深読み。運も絡んでいた作戦だったが見事に銀杏はやり遂げた。 狙っていたチャンス。相手が新世界を展開するこの時を。空間を塗り替えるその時を。 「因果応報、天誅逃亡――」 銃弾の雨が降り注いだ時にはもう遅い。武蔵が急いで攻撃に向かった時にはもう遅い。その時には既に詠唱を終えていたのだから――。 「――『羅生門』」
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