タイマン戦 国語VS社会

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794年。平安に存在した「羅生門」。芥川龍之介の作品が原作のお話。確かに実在した現実は新たに塗りつぶされる。 見上げるほどに巨大な門。傍らには大量の死体が積み上げられている。そのほとんどが餓死。飢饉によって死亡した人たちだ。 空は真っ暗。月も出ていない。雲ひとつないというのに星すら見ることができない。理屈は無い。それが現実だ。 なのに羅生門の姿だけはしっかりと見える。羅生門は980年に暴風雨で壊れてから再建されていない。なのにそれが羅生門だと武蔵は本能的に理解することができた。 羅生門から無数の白い手が伸びてきた。それらは全て半透明。女性、それどころか枝のように細くて華奢な腕。病気にかかっているかのように真っ白だ。 恐ろしくおぞましい腕は世界を服のように引っ張る。武蔵が塗りつぶしたはずの世界を引きちぎるかのように門の中へと引きずり込んでいく。 世界は徐々に元の様相を取り戻していき――いずれは何事も無かったかのように戻っていった。 「――」 唖然。その言葉が1番似合う顔。完全に嵌められた。最初に刺激されたのは――武蔵のプライドだった。 「く、クソっ!!!」 まだ世界を展開して数秒しか経っていなかった。なので体力はまだ余っている。まだ技を発動することはできる。 「親魏倭王――」 すぐさま戦闘を再開。自慢の必殺技が消え去ってもすぐに戦闘を再開するとは、流石に天才と言ったところだ。 武蔵が発動しようとしているのもまた強力な技。しかし届くことはない。なぜなら武蔵はまだ知らないからだ。羅生門の本当のを。 「―― 『W o r l d w a r 2(第二次世界大戦)』」 ――世界は再度塗りつぶされた。 「は――?」 目の前に現れた景色はさっき自分が展開した第二次世界大戦の様子だ。しかも硫黄島の戦い。これも同じだ。導き出される答えはただ一つ。 「俺の極技をのか……!!」 羅生門の物語を簡単にすると、金に困っていた男が髪を引っこ抜いている老婆の着物を奪い取るお話である。 銀杏が発動したこの特性は物語に準拠している。つまり相手の技を奪い取る技。それが『羅生門』なのだ。 大ピンチ。一転して詰みに近い状況となった。しかし諦めはしない。可能性が万に一つでもあるのなら、蜘蛛の糸にもしがみつくのが天才だ。 「邪馬台国――」 だが――しがみつくだけだ。意識的に完全な優位を取った銀杏に、もはや武蔵の勝ち目はなかった。 (――あれ、いない) 目の前から銀杏が消えていた。景色の変化、世界の塗りつぶしに乗じて姿を隠した。 (逃げた――そんなわけない。確実に俺を倒しに来るはず) ここで下手に取り逃がせばむしろ敗北するのは銀杏の方だ。だから確実に武蔵を倒しに来るはず。 どこから来る。どこに来る。思考はそれで埋め尽くされた。 ――腹部に違和感。なにか熱い物が通り抜けていったような。壊れてはならない場所が壊れたような。 「――」 またもや忘れていた。またもや消えていた。ここは自分の極技。本来は自分のつくった世界だ。なのに能力そのものを忘れていた。 この世界で起こった出来事は使用者以外は全て反映される。銃で撃たれればダメージを喰らうし、爆撃されれば吹っ飛ぶ。 今回は流れ弾が武蔵に直撃したのだ。これも大ダメージ。そうしてまた――忘れる。痛みに隠れた銀杏の存在を。 3度目の正直。握った拳に満ちたエネルギー。2度放ってどちらも当てることはできなかった。今度は当てられる。確実に。 「――『握手』」 その祈りは。ことわざの通りに。――実現した。
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